6.25「早朝の気付き」

あらすじ

「ッ――あの、こ、こここれは――」砂川さん、災難コンボ。この辺は作者のロマンがふんだんに籠められております6話25節。

砂川を読む

vsnobunaga

Day

8/15

Time

5:00

【信長】

「……んんん……っ」

 ……起きた。

 それから十数秒も、しないうちに……嗅ぎ慣れない匂いと、感じ慣れない地の感触に、すぐ気付かされる。そういえば俺は、今合宿で島に来ていたのだと。

【笑星】

「すやぁ」

 敷き布団から上半身だけ起こして、まだ殆ど暗い畳部屋を見渡す。取りあえず、笑星は発見。深幸は……見当たらない。トイレでも行ってるのかもしれない。

 ……寝直すという気にもならなくて、立ち上がった。枕元に置いておいたアルスを持ち、笑星を起こさないよう、そっと……部屋を出る。

【信長】

「今……何時だ?」

 電波は届いていないが、設定されたまま動き続けている時計は生きている。確認すると……まだ5時だった。

 起きるべき時刻はまだ2時間程度先。まぁ、寝坊するよりはずっとマシだ。

【信長】

「夏の5時は、結構明るいよな」

 日照時間の違いは、太陽気団と月闇気団の勢力差で生まれる。何か傾向としては夏の方が早くて長く、冬の方が短くて遅いという感じがするが、季節との関係性など正確な法則は分かっていないらしい。

 ただ、夏の暑苦しさにしては……この朝は随分と、スッキリしていた。

【信長】

「……ちょっと、外出てみるか」

 暗い廊下を歩く。玄関の前まで来れば、どちらかというともう明るい。

 寝姿のままの服だが、まあ空を見る程度だ、良かろう。玄関で靴を履いてガタガタを音を鳴らす扉をスライドして……外に。

【信長】

「……おお……」

 当たり前だが、いつもと違う景色だ。

 蛙盤の住宅街、蛙の鳴き声は全くそこになく。

 上を見上げれば、遮るものなくいっぱいに広がる黎明。下には、島の緑。島の町。島の港に……果てない海。別の島も見える。

 不自由なく舞う冷風が髪を撫でる。

 ありきたりだが……最高だと思った。

【信長】

「良い島じゃないか……!」

 別の大陸、しかも未開の地……そう認識していたから、多少は何か警戒していたのかもしれない。

 しかし、来てみれば……夏だというのに、この過ごしやすさ。冷たくて美味しい空気。心緩やかな人々。

 冬だとどうなのかは分からないが、ミマ島はとても快適だった。これ以上、開発が必要なのかと思わされるほどだ。あくまで中継地とのことだが……あまり余計なものを入れてほしくないものだ。

 それにしても……今年も、紫上会に入れて良かった。改めて、今そう思った。

 そう思うに至り、色々なことがあったが……今を最大に与えてくれたのは、矢張り会長で――

* * * * * *

【鞠】

「だから――貴方は曇り無く、正しい」

【信長】

「――!」

【鞠】

「貴方のその悔しさは、絶対に間違ってない。私が保証してあげます」

* * * * * *

 ただ一人、俺を貫くように理解してくれた、俺の勝者。

【信長】

「……変だな」

 つまり俺は敗者で。敗北しているという現実に対し、笑っていることになる。

 普通ならそれを俺は赦さない筈だ。会長にもきっと不評を買う。しかし……それよりも今は、あの時からずっと……心が躍るような気分を覚えていた。

 不思議だった。不思議で、疑問がやまなくて。最近いつも、彼女のことを考えてしまっているような気すらする。

【信長】

「……そんなこと会長に知られたら、もっと嫌われてしまうな――」

 そこの縁側にでも座って、のんびり風を浴びよう、と思った。

 だから足を向けた。身体を向けた。目を向けた。

 ――それを、見た。

【信長】

「――え?」

 ……毛布、だった。

 そこから延びる、4本の人の足。

 つまり、2人の人間。

【信長】

「…………」

 近付いていく。

 近付いていく。

 近付いて……そして、見下ろす――

ミマキの息吹2

【信長】

「――――」

【深幸】

「ぐぅ……」

【鞠】

「すぅ――」

 眠っていた。

 唯一無二の親友と。

 唯一無二の会長が。

 一枚の毛布の中、共に眠っている姿、だった。

【信長】

「な――え、は……!?」

 それは、あまりに現実味がない光景だった。

 だって、あの2人はあんなに仲が悪くて……

* * * * * *

【菅原】

「……二人三脚は基本的に、速度や運動神経というよりも2人の息が合うかが大事になってくるものだけど……」

【信長】

「…………」

【菅原】

「これまで彼のパートナーをしてきた松井から見て、どう思う? アレは果たして、息が合っていると云えるのか」

【信長】

「良いんじゃないでしょうか。元から、感じるところはありました。あの2人は……もしかしたら、俺と深幸のコンビよりも、強く、煌めく結果を出すことができるのではないか、って」

【菅原】

「そうだね……案外、彼女との姿も、なかなか様になっている。今年度の紫上会も――面白そう」

【司会】

「――越えました!! 砂川・茅園ペア、一度も怯むことなく、可動式ハードル地帯を突破しました、あと30mです!!」

【鞠】

「これ、で――」

【深幸】

「ッどうだあぁああああああ!!!」

* * * * * *

 ――いや、意外……というわけでも、実際無いのかもしれない。

 俺が思っていたよりも、2人の距離というのは――

【信長】

「ッ――?」

 思った途端。

 刺激的な光景に動悸を覚えていた胸が、ずきっと脈を打たれたような気がした。

 痒み――いや、痛み……?

【信長】

「……何、だ……」

 今の――何だ――

【鞠】

「……ッ……ッッ――?」

【信長】

「!!!」

 騒ぎすぎたのか、会長が……目を覚ましてしまった。

 それに対して……俺は、身体が固まったままで。

 どうしてか、眠り続ける深幸を周辺視野にとらえつつ、中心で会長を捉え見下ろしたままで……。

【鞠】

「――…………え……」

 だから、会長の一挙動も見逃す筈がなくて。

【鞠】

「……!!」

 会長は、深幸の顔が目の前にあることに、驚いていた。

 思わず距離をとろうとしたが……深幸の腕が会長を包んでいて、離れることができず……どうしようもなくて……そして、遂に――

【鞠】

「――え」

 ――縁側の前に立ち尽くす、俺を見た。

【信長】

「ッ……」

【鞠】

「ぁ……ぁ、ぁ、ぁぁぁぁぁ……」

 毅然とし、徹底し仕事をする会長からは、想像もできないほど……慌て、動揺した顔。赤みがかった表情。

 その全てが、自分の中を埋め尽くすようで……そして、

 どうしようもなく、苦しかった。

【信長】

「そ……その、俺――すいません、俺……ち、ちょっと、ジョギングしてきます――!!」

【鞠】

「ぁ、ちょ……!?」

 俺は、寝た格好のまま、逃げるように、この家から立ち去った……!!

Stage

ミマ島 町村部

【信長】

「はぁ……はぁ……!!」

【人】

「おー? 元気だねージョギングなんて。森の方には行かない方がいーよー」

【信長】

「はぁ……はぁ……!!」

【人】

「んん、都会の子どもはもやしっ子と聞いておったが、めちゃんこ速く走るのう!」

【信長】

「はぁ……はぁ……ッ――!!」

ミマキの息吹4

 走る。

 走る!!

 走る、けど……!! 気持ちの良い筈の風が、自分の中に入ってくれないようで。

 一向に熱は、冷めなくて。

 どれだけ速く走ろうとも……この苦しみは、俺を逃さない。

【信長】

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!!」

 俺は――逃げられない。

 だから、理解するしか、なかったのだ。

【信長】

「はぁ……ッはぁ――俺は――」

 俺は会長に――

vsmari

Stage

ミマ町村部 民家

【鞠】

「…………ヤバい」

 大変ヤバいものを、書記に見られてしまった。

 凄い勢いで逃げていったので……多分、何かえげつない勘違いをされてしまっているような気がする!

 ていうか私は何でこんなところで寝ちゃってるのもーう!!

【鞠】

「まぁ……思い出したけどさー……」

 寝惚けてる暇も無くあっという間に直視したくない現実まるっと全て理解。それでも巻き込まれ寝落ちした私に非がないわけない。やっちまった。

 しかし、嘆きに価値は殆ど無い。起きてしまったことは、仕方無いのだ。

【鞠】

「取りあえずまずは、この状況何とかしないt――」

【深幸】

「――――――――」

【鞠】

「……………………」

 ――目が合った。

 その視線距離、30センチもない。身体に至っては、ほぼ0センチ。今だって彼の腕は私の腰に回ってるし、私の胴体は彼の胴体に接触しているのだ。

 そんな有り得ない距離の中で、私と会計は、目があった。

 ……実は少しまだ寝惚けていたのかもしれない、非常に重大な現実を私は一つ、見落としていたということだ……。

 すなわち、書記に見られるのも可成りのダメージだったけど、そんなことよりも――

【深幸】

「な――な、な、ななな――」

 ――起きちゃったこの人がこの惨状をどう解釈するかの方が遙かにヤバい問題ッ!!

【鞠】

「ッ――あの、こ、こここれは――」

 私はどうしてこうなったかを正確に理解している。しているんだ、けど……舌が回らない。言葉がスムーズに出てこない。

 そりゃそうだよ、こんな距離感……私は初めて、だから……パニックになるに決まってる!!

【深幸】

「……………………」

 だが、反対に会計は静かになった。

 不自然に、急に。

 そんなの目の前で起こされると流石にこちらの動転も収まってくる……。

【鞠】

「……あの……?」

【深幸】

「……………………」

 私を拘束していた腕が、緩んでいた。

 取りあえず、ゆっくり、匍匐前進的な慎重さで姿勢を変えないまま背中側に這って……彼から離れきったところで上半身を起こし、ぺたんと座り込む。

 そして動きがない彼を観察してみると……

【深幸】

「~~~~……」

【鞠】

「これは……」

 ……気絶、だろうか。

 まあ、変に騒がれるよりもずっとマシだと思うから、これはこれで良かった気もする……のだけど……。

【鞠】

「……気絶するほど私が隣にいて、嫌だったか」

 何か、巫山戯んなって感想しか思い浮かばなかった。いやそう思ってくれていい筈なんだけどさ、本当。

 ……ああもう。

【鞠】

「…………シャワー、浴びよ……」

 近年稀に見る、最高にローテーションな朝。

 私は本来寝るべき寝室ばしょへと、着替えを取りに行った……。

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