6.11「船旅」

あらすじ

「砂川さんが真理学園からの学生だって知った時は、驚いたわ」砂川さん、船出。6話の時間軸は夏休みであり学園ではありませんが関係無く砂川さんが可哀想な6話11節。

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Day

8/14

【鞠】

「…………」

 ……ゆら~り。またゆら~り。

 地面が傾く。緩やかに戻り、また傾き。

 私の記憶の限りでは、この体験は2度目だ。

【秭按】

「……砂川さん、何を眺めているの?」

【鞠】

「……先生」

 デッキの端でテキトウに海を眺めてただけの私に、客室で寛いでいた堊隹塚先生が接近してきた。

 先生も今日は私服だ。私が想像してたよりはおしゃれ着持ってて少し驚いた、なんて云おうものなら怖い目に遭いそうなので勿論永劫封印。

【鞠】

「弟さんの介護はいいんですか」

【秭按】

「玖珂くんに任せました。私も、外の景色を見たかったので。他の皆はバイキングを楽しんでいます」

 よく食べるなぁ。

 私は大して食欲も興味もなかったので、ずっと此処で暇を持て余してた。そろそろ海中に魚が見えないか挑戦するところだった。10匹見つけられたら今日は幸せ、的な。

船旅

【秭按】

「船旅、楽しんでる?」

【鞠】

「全然」

【秭按】

「でしょうね」

 先生が隣で寛ぐ。

 ……そろそろ見えてきた、目的地を視界に入れる。厳密には、目的地の領域、だが。

【秭按】

「「第五の大陸」……実際この目で見る時が来るなんて」

 北海……その名の通り、中央大陸の北側に位置する海域。そこには、幾つか島が浮かんでいる。

 面積はそれぞれ小さいが、それらがまとめて「第五の大陸」と称されて注目を浴びている。まだ彩解大陸の開拓、全然進んでないのにちょっと気が早すぎじゃなかろうか。

 今、紫上会はそのうちの一つに小さな旅客船で向かっていた。因みにパパも開拓の先進組織に関わってるらしい。お土産とか買わなくてよさそうだ。

【秭按】

「それにしても……悪いわね、特に紫上会と関連のない私が、楽しいイベントに附き添うだなんて」

 楽しいのかな、これ。

【鞠】

「……一番、お世話になってる気がしたので。私の方こそ、3日も拘束する形になってすみません」

【秭按】

「特殊業務ということで8月の通常業務が削減されたわ。私にはメリットしかない。貴方には沢山、感謝してます」

【鞠】

「なら……いいんですが」

 私たちは今から、一つの仕事で島に降り立つ。決して純然な遊びではない。

 紫上会は外部イベントに結構参加するのだが、たまに参加時に顧問の付き添いが必要なことがある。紫上会には顧問が存在しない。なのでそういうとき、誰かしらテキトウに連れて行くことになるのだ。

 で、そうなると私が唯一コミュニケーションを取ってる教師はこの担任様なわけで、自然にこの人一択ということになったのだ。

 ただこの選択、私は一つ懸念もあった。それは雑務のお姉さんということもあり、身内贔屓な選び方をしたんじゃないか、と嫌な突かれ方をするかもってところ。しかし、職員室の反応をそれとなく観察とうちょうしてみたところ、いっつも休まず仕事ばかりしている献身的な堊隹塚先生には良い3日間になるだろう、ということで専ら高評価だった。思いやりの溢れた職場だ、その思いやりの眼差しを少しは私にも向けてほしかった。まあ今更だけど。

【鞠】

「顧問さんは、人員点呼や安全確認だけで、あとは飲んだり食べたりすると聴いてますので、羽を休んでもらえれば」

【秭按】

「休むというのはあまり慣れてないのだけど……厚意に甘えるわ。何と云っても、紫上会会長の指示なのですから」

 ……見た目のオーラに反して結構優しい人だったりする。依然私は苦手なんだけど。

【秭按】

「……砂川さんが真理学園からの学生だって知った時は、驚いたわ」

 文脈が飛んだ。先生も早速、暇を持て余しているようだ。私で遊ばないでほしい。

【鞠】

「……まあ、驚かない人の方が珍しい、ようですけど」

【秭按】

「私、真理学園の学生とはちょっとだけ、縁があるの」

【鞠】

「――え?」

 意外なことを云い出した。

【秭按】

「親戚の事情で一回教員を辞めて、大輪の南湘に移ってたのよ、去年まで。そこの……冨士美テラス、分かる? 彼処のスタッフとして働いてたんだけど、そこに少しの間2人、真理学園生が後輩で入ってきたの」

【鞠】

「……外部バイトですか……」

 真理学園には優海町内で働いてお金を稼げるシステムが存在する。寮制度で以て集まってくる学生の9割以上はこのシステムで満足するのだが、たまーーにそのシステムを使わないで優海町外でバイトする学園生がいる。ほぼ確実に親を持つ人達だが。

【秭按】

「確か、砂川さんの同級生よ。伊吹くんと五空さん……で分かるかしら」

【鞠】

「ああ……修羅場の……」

【秭按】

「あ、知ってるのね」

【鞠】

「まあ、有名ですから」

 私は全く関わりが無かったけど、結局あのトリオはどうなったんだろう。興味は無いから、知ってそうな先輩に訊こうとも思わなかったけど……。

 それにしても、こんな繋がり方をしてるなんて。そういえば――

* * * * * *

【秭按】

「……どうして、それを君たちが知っているの?」

【男子】

「ってことは、やっぱ本当なんだ……! いや、村田の持ってきた情報だからまず間違いないとは思ってたけど……!」

【女子】

「真理学園……」

【男子】

「ホントに……マジかよ……」

【秭按】

「……松井くん?」

【信長】

「……現紫上会の中に、その、お喋りな奴が居まして……昨日、そいつが会話の文脈に任せて暴露してしまった、といった感じです。悪気はある意味、無いとは思うんですが……」

【秭按】

「……なるほど、紫上会なら確かに、知っていておかしくないわね。だけど……真理学園で、どうしてここまで盛り上がって――あぁ、そっか……」

【信長】

「皆、砂川の自己紹介タイムは終わってる。何か埒が明かなそうだから、そういう騒ぎは後にしてくれ」

【秭按】

「……有難う、松井くん。では次は――」

* * * * * *

 ――先生の、私へ向けた反応に、これまで何度か違和感を持ったことがあったけど。

 それは単に真理学園という未知が来たってだけじゃなく、以前の繋がりあってこその驚きだったんだ。

 大して価値の無い疑問解決が発生した。

【秭按】

「……笑星、楽しそう。それでいて真剣。来年度は自分が会長になるんだから、皆を笑顔にできる会長である為に、会長や先輩たちから学べるもの全部学ぶんだって」

 また話題が変わった。

 ……確かに毎日楽しそうだし、視線をめちゃくちゃ感じる……つまり見取り稽古的なことをしてる。いや、だから私から教わるべきものは何も無いでしょってだいぶ前にそれとなく伝えたのに。

 本当に、迷惑極まりない後輩だった。

【秭按】

「これからも……五月蠅いでしょうけど、笑星をよろしくお願いします」

 彼も、この人も、何で今の環境で満足できるのか?

 客観的に考えても、実におかしい姉弟だった。

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