5.05「意気地の裏に」

あらすじ

「もう、認めてあげてよ」笑星くん達、野球部と対峙します。生半可じゃなく、人を認めるというのは実は難しいことなんだと思う5話5節。

砂川を読む

vseboshi

 野球部には、専用のグラウンドが用意されてる。

 どの部もしっかり活動できるよう働きかけれられているのが紫上学園だけど、野球部にかけられる贔屓っぷりは学園に信頼された歴史が感じられる。

 それに応えるように、放課後は毎日騒がしくて、普通のグラウンドに立ってても覇気を感じるくらいだ。

 でも……この日の騒がしさは、それとは全く違った。

Stage

野球部グラウンド

【児玉】

「紫上会は、紫上学園の心臓部分だ!! 栄光ある、我が学園の炉心部なんだ……! だというのに、その頂点に立つのが外部生だなど、そんなことを赦せるわけがあるか!!」

【深幸】

「んな決まりが何処にあるってんだよ!! 少なくとも紫上会採用のルールには一切、いっっっっっっさい書いてねえ!! それはな、転入してきた奴も漏れなく紫上学園生と認めるからだ! そしてアイツはルール通りの過程で紫上会の会長になったんだよ!!」

【児玉】

「あの時も云っただろう、ルールに書かれていないのは単に前例が無かったということだ!! 当然だ、真理学園だぞ!? あんな危険な学園から飛んできた火花を、受け入れるどころか、我々の導き手に採用するなど、言語道断ではないか!!」

【笑星】

「うわぁ……」

 ……先に茅園先輩が押っ始めてた……。

 今日も先輩はガチギレムードだ。結構あの雰囲気に入るのは勇気が要る。

【深幸】

「言語道断? 単にアンタらがアイツを見ようともしてこなかっただけだろうが! それについては正直、偉そうなことは云えないかもしれないが……アイツはな、ガチで優秀だよ。俺らが本来やる分の仕事まとめて独りでこなすくらい、超がつくほど優秀な勝者だ」

 だけど、昨日も感じたように……茅園先輩は支離滅裂ではなかった。

 熱く滾ってる一方で、とても冷静だった。

【深幸】

「それに、アンタらだって分かった筈だ。体育祭、何か不備があったか? 客は少なかったか? 事件はあったか? 無事、盛況のまま、終了したよな? それも、アイツが整えた環境あってこそだ!! 俺たちだけじゃない、学園生全員がもう既にアイツが会長としての手腕を持ってることを、否定できねえんだよ。盛り上がっちまったんだからな!!!」

【児玉】

「グッ――」

 真っ直ぐに届く、鋭利な主張だ。

 それはある種当然……だって茅園先輩が今本気で求めてるのは、松井先輩の夏が失われないこと。ただそれだけだから。

【深幸】

「それに意地張って反抗するとか、どんだけ子どもなんだよ!! それでも向上と誉れで溢れた、歴史ある野球部かよ! どうなんだよ、児玉部長!!」

【男子】

「茅園、お前までもう、アイツの傘下に入っちまったのかよ……!」

【深幸】

「俺も、あと信長も、元々最初からアイツの下だっつーの。俺たちは一度たりともお前らの味方をしたことねーぞ。なあ、笑星?」

【笑星】

「あ……気付いてたんだ。えっと、失礼しまーす……何か云おうと来たんだけど、それ全部茅園先輩がやってるっぽいね」

【深幸】

「相手があの会長だからな、こんなくだらない局面に余計な時間を割きたくねえ」

【笑星】

「だねー。会長、案の定譲歩してくれる気配無いもん」

【男子】

「ッ……あんだけ沢山、コメントが寄せられてるのに動かないとか、やっぱりアイツは――」

【深幸】

「その沢山のコメントを書く羽目になった沢山の人に迷惑掛けてんのは、野球部の方だからな。他の部は呆れてんぞ」

【男子】

「諦めただけだ……! 他の連中だって、アイツのことを認めてるわけがない……!! そんなことをしてしまったら、俺たちの紫上会が……!!」

【男子】

「目を覚ませよ、茅園! 堊隹塚!! 実力があれば、他は何でもいいのか!? 独裁を赦さなきゃいけないのか!? 紫上会はもっと、温かみのある場所だった筈だろ!!」

 ……ダメだ、流石に今までずっと反抗を続けてきただけあって、茅園先輩があれだけ云ってもまだ心が動かない。鞠会長が絶対的に悪いということを、疑ってないんだろうか。

【笑星】

「……確かに、鞠会長は、六角先輩とかと比べたら性格全然違う……真逆ってレベルかもだけど。でも、独裁では、ないんじゃないかな?」

 どうして、鞠会長がそこまで罵られるのか。

 完璧な人……とは俺も思ってないけど、でも、あんなに魅力に溢れたすっごい人だ。

【笑星】

「だって鞠会長、毎日部活や企業さんとコミュニケーション取ってるんだよ? 学園が……学園生が快適に過ごし続けられるように、毎日頑張ってる。そんなことして……鞠会長に、何のメリットがあるの?」

【深幸】

「笑星?」

【笑星】

「……俺、ずっと鞠会長のこと見てたけどさ……無いんじゃないかな、って思うんだ。だって鞠会長、本当に紫上学園に興味無いんだもん。だから、毎日頑張ってるのは……会長としての責務、ってだけなんじゃないかって」

【男子】

「それは――それが、ダメなんだろ……!!」

【笑星】

「俺はダメとは思わないよ」

 どうして……それが、伝わらないんだろう。

【笑星】

「だって、それって……結果的に自分じゃなくて、俺たちの為に全部やってくれてるってことじゃん。俺、あんな凄い人、あんな頼りになる人、他に知らないよ。俺としては、俺たちにも興味持ってほしいな、紫上学園の魅力が鞠会長にも伝わってくれたらいいな、って思うけど……俺たちは何も与えることができてないかもなのに、俺たちにしっかり与えてくれる人を、俺は独裁者とは思わないし、上に立つ人として全然ダメとは考えられない」

 ふと、この時俺は……思った。もしかしたら――

【笑星】

「最低限……もう、認めてあげてよ。俺も、茅園先輩も……松井先輩も認めてる、鞠会長のことを」

【野球部】

「「「…………」」」

 ――評価できないのとは、認められないのと、全く別のことなんじゃないかって。

【四粹】

「……現状全く、問題の無い働きと手前は評価しています。発足間もなく、引き継ぎの知識も無い状態からスタートしたにも関わらず体育祭を前年度以上の盛況で終わらせることができたのも、過去の紫上会資料をすべて精読なさった会長の努力によるものでしょう。今や手前や学園生の知らない紫上学園を、彼女は多く理解しているのです。監視という特殊な立場を持つ以上、踏み込んだ発言は慎みますが……問題は、感じません」

【深幸】

「初っ端から訝しんでた俺ですら、考え方を改めてんだ。これ以上こんな何も生まない抵抗して、信長の夏を諦めさせないでくれよ……!!」

【児玉】

「ッ……」

 松井先輩のことは……やっぱり、気にしてるんだろう。

 確実な揺らぎが、俺の目でも分かった。

【児玉】

「松井は……もうお前たちにも、伝えたんだな」

【男子】

「俺たちは全然認めてねえのに……何でいきなりそんな勝手なことを――」

【深幸】

「勝手なのはお互い様だろうが。信長は最初から誓約書を出せって云ってたぞ」

【男子】

「…………」

【笑星】

「俺は遊ぶために野球部に居るんじゃない……って云ってた。やっぱり試合に出れないから、辞めるってことなんじゃ」

【男子】

「にしても、来年があるだろ……!」

 あ――

 まだ、こっちには云ってないんだ。

【笑星】

「今年、だけなんだよ」

【男子】

「……え?」

【笑星】

「松井先輩……今年度の終わりに、毘華大陸に引っ越すって云ってた。転校、するんだよ……」

【児玉】

「ッ――何だと!? それは本当か!?

 野球部に……動揺が拡がる。

 崩れを、感じる。大きな衝動に違いなかった。

【深幸】

「……俺らも、昨日知った。だから、野球をする意味はもう無いって……アイツは紫上会に一点集中することにしたんだろうよ。正直その発想は未だに理解できねえが……紫上学園でのアイツの夏は今年限りなんだってことは確実だ」

【四粹】

「本当は、卒業のタイミングで引っ越す予定だったのが、1年前倒しになったそうです。いつ云うかのタイミングは、今年度の甲子園が終わってから……としていましたが、こうしてエントリーすらできない状況ですので、タイミングを失っていたそうです」

【児玉】

「松井――そんな、お前――」

 部長さんは、何かを呟いてた。半分すぐ空気に掻き消された、半透明な音。だから推測混じりだけど――

 「もっと早くに知っていたら」

 そう、云っていた気が、した。

【深幸】

「俺は……絶対、絶対諦めねえ。信長の事情一つで会長の気が変わるとは思えねえけど、それでも黙って諦めて時を迎えるとか、有り得ねえ」

【笑星】

「……うん」

【深幸】

「俺は、野球部が甲子園に出場する今年の夏を、諦めねえ……!」

【笑星】

「うん……!! 諦めない!!」

【児玉】

「……茅園……堊隹塚……」

【深幸】

「だから、俺はまず、アンタらのくだらない意地を溶かすことから始める。信長の、為に」

 ……結局この日は、その目的を達成するには至らなかったけど。

 何かがきっと、動いた。一歩前進はした。そう確信してる。

 だから――お願い、諦めないで、松井先輩……!

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