5.42「正直な気持ちを」

あらすじ

「はは……俺ってやつは本当に――」英雄信長、我が家に帰還。今年の夏を何とかやりきった筈の彼がその夜思うこととは? 次回でようやっとラストな5話42節。

砂川を読む

vsnobunaga

Time

21:30

Stage

松井家 信長の家

【信長】

「……………………」

 あれから、家に帰り、両親に迎え入れられ、祝福された。

 晩飯を食べて、風呂にも入り……そして今は、自分の部屋のベッドに倒れ込んで、ただただ天井を見ていた。

 これは、あまりやらない行為だ。ベッドは寝転ぶ暇潰しのものでなく、快適に睡眠を摂るための設備。暇を潰すというなら、勉強か筋トレに費やす。

 だが、俺は今どうしても、こうしていたかった。他の何をもする気にならなかった。

【信長】

「……これで暫くは、落ち着くかな」

 実力試験、それに甲子園が終わった。俺が準備してきた2つの勝負はもう幕を閉じた。俺の学園生活の山場はもう越えてしまったわけだ。

 本当に……色々あったな。

 紫上会に入れば、見る世界は変わる。そう経験者は証言するが、確かに去年度入って俺は一般学生じゃ経験できない沢山のものを経験できた。良かったと思う。

 だが、真に俺の世界が変わったのは、今年だった。

 あの人が、来たからだ。

【信長】

「……嘘つき、か」

 そんなこと……今まで云われたことなかったんだけどな。抑も嘘なんて好きに付く性格じゃないし、紫上会の人間として皆の手本となるべく誠実でいたいと心懸けてきたつもりだ。

 だが……俺は、嘘つきだったのだ。

 彼女を傷付け、俺自身をも傷付ける、未だに全容がよく分かっていなくて恐ろしい――

【信長】

「いやいや……」

 だけど、どう考えたって、俺は幸せ者だ。それは嘘じゃない。

 人から評価されるということは、素晴らしいことだ。沢山の名刺を貰った。沢山の人が応援してくれた。今日に至るまでに、沢山の仲間が動いて、泣いてくれた。

 そして、

* * * * * *

【鞠】

「だから――貴方は曇り無く、正しい」

【信長】

「――!」

【鞠】

「貴方のその悔しさは、絶対に間違ってない。私が保証してあげます」

【信長】

「……会……長」

【鞠】

「……貴方の嘘はタチが悪いので、これ以上またややこしい事を引き起こす前に、正直なこと、もっと周囲に伝えた方がいいんじゃないですか」

* * * * * *

【信長】

「俺のことを、こんなにも分かってくれる人がいる……」

 貴方と出会えて、貴方が俺の勝者でいてくれて、どうして俺は幸せじゃないと云えるだろうか。

【信長】

「……正直なことを、か」

 ……それでも、貴方は云う。

 俺はまだ、自分に嘘をついていると。

 俺には――やり残したことがある、という微かな気付き。

【信長】

「……はは……俺ってやつは本当に――」

 しかし、不思議と安心感があった。きっとそれもまた、会長が与えてくれたものだろう。

 俺は天井を眺めるのをやめ、反動をつけてベッドから一気に起き上がる。部屋を出る。

Stage

松井家 リビング

【父親】

「おぉおお……どのチャンネルのニュースにも息子の顔がぁ……一体誰から子自慢してやろうかな……!」

【母親】

「こらこら、勝手に話題にし過ぎたら怒られるわよ」

【信長】

「……父さん」

【母親】

「ほら来た」

【父親】

「うお!? ど、どうした!?」

 リビングでは、スポーツニュースを見てる2人が。

 ……画面にはどう見ても俺が映っていた。流石に恥ずかしい。これは純粋な照れだ。

【信長】

「ちょっと、2人に話があって」

【母親】

「あら、私も? 私今日はそんな、信長に怒られるようなことしてない筈だけど……」

【信長】

「別に全然怒ってなんかないよ。寧ろ、いつも感謝してる。俺をここまで育ててくれて」

【父親】

「……本当に、善良に育ってくれたなぁ」

【母親】

「ね。私たちが育てた覚えは無いのよ、本当。勝手に貴方が、こんな立派に育ってくれただけ」

 善良か。立派か。今の俺は、そんな肩書きを持つに耐えうる自信は無い。

 俺はあまりに、周りに恵まれすぎている……だけど、それでもまだ、欲を云っていいならば。

【信長】

「……父さん。母さん」

 俺はまず、本当の正直になりたかった。

【信長】

「俺――」

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