5.36「甲子園!」

あらすじ

「よし、信長打ったぞ!」紫上野球部、約束の舞台にて激闘。やりたいことはやったので甲子園編は巻き巻きにしちゃう5話36節。

砂川を読む

Day

7/20

Time

14:00

Stage

スカイブリッジ 構築球場

【鞠】

「……………………」

 ……暑い。ガチ夏の日差し。

 球場構築するんだったら屋根も構築してくれればよかったのに……。

【観客】

「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 ……よく皆、こんな燥ごうと思える。そんなことしたら体力一気に奪われるのに。熱中症なっちゃうよ。

【鞠】

「んく、んく、んく……」

 始まったばっかりだというのに、スポーツドリンク1本目がもう尽きそう。

 私史上、こんなハイスピードでペットボトルドリンクを消費したことあったろうか。私は夏も冬も基本インドアだからだろうか。

 ……さて、何が始まったばっかりなのかというと、まあ案の定というか、ここまで流れが作られてたら不思議じゃないというか。

 ホントはマジ来たくなかったっていうか終日持ってかれるぐらいなら企業交渉してたかったというかでも義務活動だから仕方無いというか、そんなわけで此処は甲子園。

 興味無いので何にも調べず、取りあえず知らされてた試合時間に中央塔に来て、気合い入りまくりの会計らに附いてきただけ。もしや今この場で最も「何で来た?」感漂ってるかもしれない私は学園席の中でもまさかの最前列で、有言実行した野球部の試合を観に来たのだった。

 最前列といっても、試合会場に飛び降りたら足の骨ブレイクしてもおかしくない高さではある。

【深幸】

「かっとーばせーーー!!」

【笑星】

「ほーーむ、らん!!」

【鞠】

「…………」

 にしても、五月蠅い。応援なんだから五月蠅くて当然なのかな。寧ろ気が散るんじゃないだろうか。

 無論、私はサイレントを保ったままテキトウに眺めていることにする。

【深幸】

「ッ――あぁあああクソッ、チェンジだ……!!!」

【笑星】

「惜しかった気がするようなそうでもないような……」

【鞠】

「……あれ、攻撃終わり?」

 何か私の後方でかっ飛ばせコールが乱れ撃ちされてたからうちの野球部がバットを振るってた時間なんだと思うが、何かあっという間に終わったっぽい。

 ……私本当、何で此処居るんだろう。

【四粹】

「アウトを3回取られたら、攻守交代なんですよ」

【鞠】

「……アウト?」

【四粹】

「…………」

 副会長に見放された感じがした。いっそ快挙だ。嬉しくはない。

 で、攻守交代ということは、今度は敵方がバットを振り、こっち側が投げて、あと捕る側だろう。

 というか敵さんの応援の迫力が凄い。吹奏楽部多くね? 学ラン暑くない大丈夫?

【深幸】

「流石に、稜泉学園相手にそう容易く得点はできないわな……」

【笑星】

「確か前年度の優勝校だよね……それで今年も最強の優勝候補って叫ばれてる……茅園先輩ってそれなりに野球経験あるんだよね、先輩から見て相手の野球、どう?」

【深幸】

「素人目と大差無いとは思うが……過去の試合映像見る限り、安定し過ぎてる。息遣いが感じられねえ……まるで機械仕掛けのような完成された野球だ」

 素人のコメントじゃないと思うソレ。

 しかしいきなりそんなヤバい奴らと当たったのか。

     

【紫上】

「――ッ!!」

【信長】

「はぁ――!!」

【紫上】

「なめんな――!!」

     

【深幸】

「っしゃあぁあああコッチだって負けてねえぜええ!!! 気合いは随一だからな!!」

【笑星】

「松井先輩かっけーーー!!」

【鞠】

「…………?」

 あれ、また皆、慌ただしく動き始めた。攻守交代っぽい。

【四粹】

「ストライクで1アウト、ヒットをファーストの松井さんがノーバウンドキャッチで2アウト、ヒットを素早く処理して3アウトチェンジでした。次が2回表、紫上学園の攻撃です」

【鞠】

「…………」

 よく分かんないけど、拮抗できるということか。

 正直、あんまり長引かれるとこっちもキツいから早く終わってほしい……座ってるだけだが、ここにずっと座ってるのはとても安静にできてるとは云えないから。

【紫上学園陣】

「「「おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 ……紫上学園生、皆何か歌い始めた。応援歌幾つストックしてきたんだろう。

 私的には全部ノイズ認定なので、ストレスの上昇が止まらない。地獄。

【四粹】

「……会長、あの中心に立つ投手が……去年同様に今年最も注目されている選手です」

【鞠】

「……?」

 副会長のガイドに従い、興味の無い試合空間に眼を遣る。

 片目じゃなかったとしてもこの距離。双眼鏡使わなきゃよく分かんないだろうけど、まああれが投手……ピッチャーっていうんだよね、それが立っていることぐらいは何となく分かる。

【四粹】

「稜泉学園2年、石山博樹さんのその最大の特徴は――」

     

【石山】

「よいしょ」

【紫上】

「ッ――!!?」

【審判】

「ストラーーイク!!」

     

【四粹】

「――あの高速のストレートです。時速170kmはあると云われています」

 学生野球の投球速度の相場は知らないけど、高速道路走ってる車並みってヤバいじゃん。

【四粹】

「稜泉学園は完成された守備が歴年常に評価されてきましたが、彼が入学してからは鬼に金棒、敵無しとなりました。あの球を打つのは限りなく難しく、仮に当てられたとしても、エネルギーが凄いのでしょう、遠くに飛ばすことができません。噂ですが、一発で校舎に穴を開けたらしいです」

【鞠】

「殺人に使えますね」

 勝てねえじゃんそんなの。

     

【信長】

「――ッとらあぁああああああ!!!!」

【石山】

「…………お?」

     

【深幸】

「よし、信長打ったぞ!」

【笑星】

「ホームランいってほしかったなー……! でも初めて塁ゲットできたね!」

 ……書記がそんな殺人投球を打ち返したようだった。

 何にも知らない私からすると「真っ直ぐ来るんなら当てられるんじゃね?」とか思ったりもするが、この会場全体の盛り上がりをみても、打ったというのはよほど凄いことらしかった。

【四粹】

「……手前の知る限り、彼の球が打たれたのは今年初めてな気がします」

【鞠】

「…………」

 流石にあのゴツい野球部皆から慕われているだけはある、ということか。

 私は全く観てないが、話によると甲子園予選の決勝リーグではあの書記、逆転ホームランを2回決めたらしい。勝負強いんだろうなとは思ってたが、それ聞いて私は軽くドン引きしている。

 まったく、余計な事をしてくれる。アイツ1人がミスをしてくれていれば甲子園の道はそこで終わって、私はこんな炎天下に駆り出されずに済んだのに。

 ……そう、私の眼から視ても、紫上学園野球部は稜泉学園という最強を相手取るには力不足。厳密に云えば、書記以外の選手のクオリティが不足している。

【笑星】

「ああっ!? 3アウトだー……」

【深幸】

「くそ、繋げられなかったか……」

 書記が打てたとしても、他の人が打てないんじゃ、得点にはならない。

 攻守交代、守りについたところで……

     

【紫上】

「ッ――!!!」

【稜泉】

「トアッ!!」

     

 それは、一気に露わとなってしまう。

【笑星】

「大丈夫、一塁を取られただけ……こっから完封すれば――」

【深幸】

「――ヤベえ奴が来た」

     

【アナウンス】

「バッター――石山くん」

【石山】

「……いざ、勝負!」

【紫上】

「来やがった……バッティングでは好きにはさせねえ!!」

     

【鞠】

「……投手もバットを持つんですか」

【四粹】

「彼が好きなのは、バッティングの方らしいです」

【鞠】

「はい?」

【四粹】

「「勝負してる感じがするから」、だそうですよ」

     

 ……かきーーーん。

     

【紫上】

「ッ――」

【信長】

「……!!」

【紫上学園陣】

「「「――――」」」

【石山】

「――俺の、勝ち」

     

 ……良い音が聞こえた気がする。

 あちら側の凄まじい嬉々を見るに……ホームランだったのだろう。

 軈て巨大な電子掲示板にて、稜泉学園の「0」が「2」に変わる。

【深幸&笑星】

「「ッッッ」」

【四粹】

「阿部さんが今投げたのはシンカーですね。打者の近くで急に沈むように落ちる球なんですが……難無し、ですか」

【鞠】

「……ふむ」

 こちら側、流石にこの瞬間は言葉にも詰まる。

 一方私は……野球は基本知らないのだけど、最近テレビで見て知った言葉をこの時思い出していた。

 「甲子園には魔物が棲んでいる」。

 紫上学園野球部の、虚勢のひびに――魔物が潜り込む……。

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