5.35「仕返し」

あらすじ

「お前、絶対、赦しませんから……!」砂川さん、また散々。予告通りすっきりネタばらしな5話36節。そして5話もいよいよ大詰めって感じです。

砂川を読む

【六角】

「つまり、平均点を上げようとしたわけだ」

 俺たちの疑問に対し、回答したのは赤羽囲みから距離を取っていた六角先輩だった。

 皆、先輩の方を向く。

【六角】

「四粹、お前……最初から分かってたなー……?」

【四粹】

「……手前から説明してしまうのは、抵抗がありましたので」

【六角】

「まあお前らしい立ち振る舞いだとは思うがね。さて、じゃあ今全部理解できた俺様から解説してやろうじゃないの。いいよねー会長さん!」

【鞠】

「……話し掛けないでください(←カタカタ)」

【六角】

「四粹、何か不備あったらサポートよろしく」

【四粹】

「承知しました」

 六角先輩、それに玖珂先輩の解説もまた、俺たちからすれば唐突な中で始まった。

【六角】

「俺ら皆、救済措置としてはまあ丁度良い、巨大な壁だと思ってた今回の勝負、これは実は最初っから本当に救済措置だったわけよ。何故なら、極端な話さ、児玉とか松井とか、総合点75%以上の部員が団体規則の定める定員数居れば、条件達成だからだ」

【深幸】

「……は?」

【邊見】

「あ~……何か分かったかも」

【笑星】

「え!? 邊見分かっちゃったの!?」

【邊見】

「でも……何か、ズルい感じもするなぁ~……」

【六角】

「確かになぁ。でも会長が定めた概要ルール上、何も問題ねえぜ。つまり、現野球部のうち、75%を切っちまった面子が退部届を紫上会に届ければ、現平均点72%ほどは自動的に上昇していくんだよ」

【深幸】

「――あぁあああああッ!?!?

【笑星】

「自動的に上昇……え、マジで!? 試験終わった後に、そんなの起こるの!?」

【児玉】

「その、理屈は確かに分かるが、試験の結果が分かってからそんな大胆なことをするのは可能なのか!?」

【四粹】

「……だから、救済措置の判定日は今日に設定されていたのでしょう。結果発表式の日は登校こそすれど、午前10時頃には既に放課後状態、充分に時間があるというのにその日を判定日と設定しなかった。対象者の妙な細かい文章を考えると……意図の誘導を僅かに感じました」

【六角】

「なるほど、そこで四粹は勘付いたわけか。まあぶっちゃけるとだ、最初から野球部、勉強しなくてもよかった闘いなわけよ。真剣勝負というか勝負にすらなってない、結局救済措置でしかない救済措置だったってわけさ」

【信長】

「――――」

 ――まさか。

 あの時の言葉の意味は。

【深幸】

「成績で足手纏いになる奴は、救済措置が発動するまでの間だけ退部してればいい……その後、再入部することを拒む規定とか聴いたことないし……」

【邊見】

「勿論この方法を実質認めるような書き方をしてる時点で、会長先輩も、再入部の処理は想定済みですよね」

【児玉】

「………………お前……それに、気付いたのか……?」

【赤羽】

「あー……それは、えっと……」

【男子】

「でも赤羽、俺らに一切それ話してなかったよな!? それで新しい部員を持ってきたって……どうして」

【赤羽】

「……一番の足手纏いは俺なのに、皆、俺のこと、これからも仲間だって云ってくれたから……誰にも退部しろとかそんなの、云えるわけねーし……」

【野球部】

「「「――――」」」

【赤羽】

「だから、兎に角平均点を上げたいから、良い成績だった人たちに声掛けて……それで、来てもらったんだ」

【学生】

「赤羽の為じゃねーぞ、野球部の為だからな、勘違いすんなよ」

【学生】

「野球部は紫上学園の誇りだからなぁ。来年は勿論だが、今年も甲子園に行ってほしいもんさ」

【学生】

「紫上会には入れなかったが、勉強してて良かったわ。こんな形で助けになれるとはなぁ」

【男子】

「赤羽……俺たちが全部終わった気でいた間に、こんなことをしてたのか……」

【男子】

「……ははっ……ほんと、云えよお前……俺たちからお願いした方が遙かに効率良かったろうが。名誉挽回でもしたかったのか?」

【赤羽】

「そういうのじゃ、ないっすよ。……思いつかなかったってだけで……」

【児玉】

「……辛かったろうに」

 キャプテンが、赤羽の背中を叩いた。

【赤羽】

「ッ――」

【児玉】

「ありがとうな、赤羽」

【赤羽】

「……俺も、野球部っすから。当然っす」

【鞠】

ッ――!!!!

 ガンッ!!!

【みんな】

「「「……!?」」」

 凄い音が響いた。会話が遮断され、皆ステージに目を向ける。

【鞠】

「~~~~~……」

 ……会長が、膝あたりを抱えて前傾姿勢で声に出さず悶えていた。多分だが……立ち上がった拍子に膝をテーブル裏にぶつけたんだろう。音からして、相当な勢いで立ち上がったっぽいが……

【鞠】

「ッ……お前、絶対、赦しませんから……!」

【赤羽】

「は!? な、何がだよ、今の八つ当たりだろ完全に!! 結果どうだったんだよ!!」

【鞠】

78%……!

 不機嫌な声で、会長はマイクも使わず結果を叫んだ。

【野球部】

「「「…………」」」

 78%。

 それは、確認するまでもないことだが、75%を上回る数値だ。

 つまり――

【鞠】

「……救済措置を、発動します」

 ――勝利。

【男子】

「ま……マジで……」

【男子】

「俺たち……勝ったのか……?」

【鞠】

「救済措置概要に従い、活動自粛の処理を、本日を以て解除します。また、本日に限り、誓約書の提出を認めます。部長が、私に、直接提出すること。以上、解散」

 マイクを持った会長は淡々と語り終え、パイプ椅子とテーブルを片付けて、不機嫌なままステージを降りて……誰に見向きもせず退出していった。

 ……………………。

【みんな】

「「「うおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

【男子】

「やったぁあああああやったぞおぉおおおおお!!!」

【男子】

「キャプテン、俺たち、俺たち――!!!」

【男子】

「赤羽、赤羽ぁ、本当よくやったよお前、サンキューなぁ!!」

【赤羽】

「…………」

 喜びが、爆発する。会場は大盛り上がりだ。

 俺たちは勝った。会長との勝負に――

 ……否。

 これは――

vsmari

Stage

紫上学園 外

【鞠】

「……いたたた……」

 これ、絶対痣になる……でも膝だし、流石に眼に影響は無いよね? 眼科行かなくていいよね?

 ……はぁ、ホントにあの空っぽ脳め……。

【???】

「――会長!」

 やることも終わったし教室に戻ろうかな、と思ったところで、声を掛けられる。

 追い掛けてきたようだ。正直これは予想していた。

 特に何か感情が湧くわけでもないまま振り返る。

【信長】

「…………」

【鞠】

「……何か用件があるなら簡潔にどうぞ」

 その先も、予想済み。

 それらも今なら、書記は全て理解していることだろう。

【信長】

「会長……あの救済措置は」

 だから、これは単なる答え合わせ。

 書記の答え合わせに附き合う義理があるのかは疑問だが、どうせテキトウに振り払ってもどこまでも追い掛けてくるので諦めて附き合ってやるのが吉。

【鞠】

「云ったでしょう。これは貴方への仕返しだと」

【信長】

「……そういう、こと、だったんですね……」

 そう、これは端から勝負などではない。勝負の皮を被った、敗北者どもへの気まぐれ身勝手な慈悲。

 まあ野蛮だのスパイだの散々な扱いをされた私に対して土下座までするような連中だから、この程度のことは泣いて喜んで受け入れてくれるだろう。実際メリットしかないのだし。

 しかし、コイツは、コイツだけは違う。

 今度は――私が、勝負を穢した。書記に嘘をついた。書記を、裏切った。これは充分、仕返しに値するだろう……?

 そう、表情で私も答え合わせを図るが――

【信長】

「…………」

 ――全然、辛そうじゃなくて。

 何と云うか、憑き物が落ちた感じで……スッキリした安寧な顔をしていた。ちょっと私の予想したものとだいぶ違う。

 …………まあ、もうそんなのも、どうでもいいんだけどさ。

【鞠】

「こんなちゃっちいところに全力を出している暇なんて無いでしょう。貴方には、もっと真剣に、全身全霊、全てを懸けて戦うべき勝負の舞台があるのでしょう」

【信長】

「はい。俺は……甲子園を、目指します」

 大事なのは、彼は結局その道を選んだということ。

 彼の勝者である私ではなく、私がすっかり嫌いになった連中と共に歩くこと。

 私を裏切った道を、そのまま進むこと。

【鞠】

「そんな決意、私に云われても無意味ですが」

【信長】

「いえ、意味があります。俺は、会長を裏切った……その先で、手に入れた機会なのだから。だからこそ、誰よりも貴方に、評価をしてほしい!!」

【鞠】

「……評価?」

 何か面倒臭そうなこと云い出した。この辺は予想してない。

【信長】

「俺が懸けたモノ全てを……必ず、甲子園で見せてみせます。それを、貴方に評価してほしいんです。勿論罵倒でも全く構いません、お願いします」

【鞠】

「いや何で私が甲子園なんて観に行かなければいけないんですか。前にも云った気がするんですけど、野球の何が楽しいのか分かんないって――」

【四粹】

「――会長、恐れながら……」

 何か、副会長が合流してきた。

【鞠】

「……何ですか」

 恐れながらとかこの人に云われると嫌な予感しかしないんだけど……。

【四粹】

「運動部が全國大会級に出場した場合、紫上会はその観戦の義務があるんです……」

【鞠】

「…………」

 またそういうのかいっ。

 私、痣になりそうな膝を着く。痛い。

【信長】

「会長――本当に、すみませんでした。そして……本当にありがとうございました! 貴方は無論、俺を嫌っているでしょうが……」

【鞠】

「まあ、はい」

【信長】

「……俺は、本当に、貴方が俺の勝者で、良かった」

 ……気持ち悪いこと爽やかに云うな。

 仕返した私に更に仕返してきた感じの書記は、体育館の方に戻っていった。きっと仲間達と喜び合う時間を取りたいのだろう。

【四粹】

「……会長」

 ……ゆっくり立ち上がったところで、副会長が話し掛けてきた。

【四粹】

「赤羽さんには、会長から教えたのですね」

【鞠】

「……………………」

 ソノナヲクチニダスナ。

【四粹】

「ぇ……か、会長、凄まじい不機嫌ですが……何か、あったのですか……?」

【鞠】

「……アイツ、50%以下の得点科目を有する学生を連れてきました」

【四粹】

「…………あぁ……それは……」

【鞠】

アアアアアアアアアアアア

【四粹】

「……災難、でしたね……」

 ホントだよ。

 今回私、すっごくボロボロ……。

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