5.33「足手纏いは……」

あらすじ

「足手纏いは今すぐ退部しなさい」砂川さん、またまた獣と対峙。5話は随分機嫌を損ねまくる砂川さんな5話33節。

砂川を読む

vsmari

Time

18:30

Stage

紫上学園 外

【鞠】

「……あ~……キツ」

 リハビリ的なものを挟まずいきなり7時間程度ぶっ通しで作業し続けたのは流石にマズかっただろうか。頭痛い。眼まで痛くなったらどうしよう、またお医者さんに怒られる。

 それでもこんぐらいしなきゃ溜まってしまった仕事は片付かない。事務的なものをとっとと終わらせて、そろそろ企業の人たちとコンタクトを取らないと。

 ……ただ、流石に体育祭の時みたいな連日宿泊をしようものなら、メイドが侵入してきそうなので、しばらくは大人しく夕方で帰ろう。

【鞠】

「…………(←コール)」

【汐】

「― 鞠ッ!! やっっっとお出迎えのおねだりですか!! 遅いですよもう!! ―」

【鞠】

「だからといってコール仕掛けまくるのやめてください」

 17時越えた頃から1分に1度着信履歴が更新された。それからはもう着信してしまうアルスを鞄に仕舞って遠くに置いてから作業していたのだった。

【鞠】

「ではよろしくお願いします」

 説教とか聴きたくないのでこちらの用件だけ省略しつつ済ませ、電話を切った。スカートのポケットに仕舞って、改めて正門でぐちへと眼を遣る。

 ……………………

【鞠】

「誰かいる……」

 しかもほぼ仁王立ちって感じ。誰かを待っているのだろう。通りづらい。

 …………。

【鞠】

「…………うわ」

【赤羽】

「…………」

 通りづらいなんてものじゃない。直感した、通れない。

 多分、私は呼び止められるからだ。

【鞠】

「…………」

【赤羽】

「…………」

 視線が合ってしまったのを理解して……3m以上の距離を持ったまま、私は立ち止まる。

 会見を含めると、これでコイツとは4度目の対峙になる。

 ……過去と比べると、随分と、大人しいものだな、と呑気に思った。

【赤羽】

「……72%だった」

【鞠】

「…………」

 何の話か、なんて云おうものなら殴られるだろう。決まっている、例のアレだ。

 本日結果発表式……つまり全学生の期末試験答案が一斉に返却される日でもある。副会長の云った通り、野球部の結果までもが判明する運命の日……となるのだろう。

【赤羽】

「あと3%だったんだ。皆凄く、頑張ったんだ。野球じゃないけど、全力で闘って……それで負けた、だからいいんだって。お互いを称え合って、野球部はこれからも進化するって――」

 いや、そんなことは断じてないのだけども。彼らにとって、闘いはもう終わったのか。

 72%という敢闘、否、惜敗を受け入れて。

【赤羽】

「――けど、野球じゃ、ねえじゃねえか……いいわけ、ねえだろ!」

 少なくともここに、1人、諦めきれていない奴が居るにもかかわらず。

【鞠】

「…………」

【赤羽】

「野球部が、野球で終わらなくてどうすんだよ……そんなので皆、認められるワケねえだろうが……!! だから……だから……ッ俺は――」

【鞠】

「また、穢しますか」

【赤羽】

「ッ――」

 何処までも莫迦な奴。考え無し。子どもの駄々。

 だが、それは今の野球部の、本当の気持ちを唯一露わにする希少な存在とも云える。だからといってコイツが有益であることは有り得なくて……その握りしめる手は、また獣になろうとしていた。

【鞠】

「まだマシな終わり方で我慢することができず、また暴れて、また最悪の終わり方に皆で堕ちるんですか」

【赤羽】

「――俺は――俺は――」

 勝負を穢し、私を襲い、野球部を悲しませ、書記に傷を残し。

 そんな夏を紫上学園の皆に植え付けるというのか。

 ……それを、分かっている手の震え、声の震え。

 諦めきれないが故の、葛藤。

【赤羽】

「――野球が、やりてえんだ……」

【鞠】

「…………」

 恐怖と闘う、勇気。

【赤羽】

「キャプテンたちが、松井先輩が、野球やってるのを見てえんだ……ッ皆は絶対野球がやりてえんだ! だから……だから、こんなところで、諦めきれるかよ――!!」

 例えどんなにリスキーな選択だとしても、希望があるというなら、それに賭ける――

 まるで、漫画のようだ。きっと中途半端に留まるよりも絵は鮮烈に読者の心を沸かせ、彼は軽く英雄扱いされるのだろう。

 ………………さて。

【赤羽】

「砂、川……俺は、どうなってもいい――野球部を!!!」

 そろそろ……キレていいだろうか。

【鞠】

ッ……ッッッッッ~~……!!

【赤羽】

「……え?」

 思わず頭を掻きむしる。

【鞠】

「どいつも、こいつも……莫迦ばっかりで……しかもいっっつもこういう、変な方向に持って行くタチの悪い莫迦多い――!!!」

 走り、今度は逆に私が、男子の襟元を掴み、逃がさず眼前で云う。

【鞠】

中でも特級に莫迦な貴方には私、唯一こうハッキリと云った筈なんですけど!! しっかり概要を読め、と!! 漫画みたいな悲壮な決意を、中途半端なタイミングでやるな!!

【赤羽】

「は!? い、いや、ちゃんと読んだし俺――」

【鞠】

「しっっっっっかりって云った!! ……野球部はまだしも、この学園の学力トップ層がアドバイサーとして揃っておきながら、殆ど同じように気付いてない惨状……」

 笑えない。何より、

【鞠】

「それならそれでも別に良かったけど……貴方みたいなぶっ飛んだ莫迦が出てくるから……」

【赤羽】

「ッ……云わせときゃ、いちいち莫迦莫迦って――!」

【鞠】

「……貴方を少しでも放っておくと、ロクなことがないのはよく分かりました。私のミスと捉え、その詫び的なアレで……教えてあげましょうか、今回の救済措置の、必勝法を」

【赤羽】

「――は? …………はぁ!?」

 問うたが、コイツにはシンキングタイムも要らないことだろう。故に待つ必要もない。コイツの為に1秒も待ちたくない。私は、これ以上無い必勝法を、もう絶対私の予想を裏切ってくれないよう確実に口答する――

【鞠】

「簡単なことです――貴方のような、足手纏いは今すぐ退部しなさい」

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