5.31「期末試験」

あらすじ

「(……間抜けめ)」砂川さん、1学期の期末試験を受けます。作者は先生に媚びを売りまくって平常点で成績を稼ぐタイプな5話31節。

砂川を読む

Time

8:00

Stage

霧草区

 ……水曜日。久々の登校だ。行く場所が場所なので嬉しくはない。

 それにしても一回日常リズムが崩れたせいか、何か変な感じだ。できるだけ朝型を心懸けたのだけど……流石に運動してなかったから身体も鈍った所為だろうか。体育祭の時に養ったものも相殺されてしまっただろうか。

 ……この先役に立たないとは限らないし、日常的に体力作りしていこうかな。健全な精神は健全な身体に宿るというし。

 なんて計画は今することじゃないんだろう。だって今日、期末試験当日ですし。私史上、これまでで一番勉強が出来てないどころか授業すら出てねえ。

 周りの目を考えても、今回もまた満点を狙っていきたいのだが……正直自信は無い。

【汐】

「鞠、着きましたよ」

 と、いつもの場所にドリフトで停車する。ここからはこれまで通り、自分の足で校舎まで行く。

 ……そういえばあの会見、一般学生にどんだけ知れ渡ってるんだろう。ちょくちょく顔を出してた前会長の話によれば、学園全体が暗くなってるっぽい。

 それが謂われのない私へのヘイトに変わんないか心配だ。無駄な厄介事はご勘弁。

【汐】

「あ、待ってください鞠、今どっかに駐車してくるので!」

【鞠】

「は? 何で待たなきゃいけないんですか」

【汐】

「だって鞠を護衛しなきゃいけないですし」

 はあ?

【汐】

「ふふふ……この私が居る限り、これ以上鞠に怪我など負わせませんよ……近付く輩は片っ端から関節外してプールに投げ込んでやりますよ……!」

【鞠】

「正門入ったら警察に突き出しますよ」

 ……何か、コイツに比べたらまだマシかなって思えてきた。

Stage

紫上学園 正門

【邊見】

「あっ……会長先輩……!」

 ……諦めてはいたけど、知ってる奴と出会ってしまった。

 そんな、変わり果ててはないと思うんだけど、眼帯してると軽く注目を集められるようだ。

【笑星】

「え……鞠会長!? もう出てきちゃって大丈夫なの!?」

【鞠】

「いちいち騒がないでください」

 ああもう、注目される。嫌だー……

Stage

廊下

【深幸】

「……会長……!」

 廊下で会計とエンカウント。復帰初日から運が無い。

【深幸】

「救済措置の件、痛み入る――!」

【鞠】

「だから騒がないでください屋内で騒がないでください本当に」

 往来で頭下げられるとかもっと注目されちゃう。

 教室に至るまで、恐れていた不穏や混乱の空気をしっかり察知しちゃう私。学生たちの眼が怖い。「あ~あ、戻って来ちゃったよアイツ」と思ってくれてた方がまだずっとマシである。

 不透明な感情の眼差しをリハビリさせてくれる暇も無く徹底的に浴びて、私はようやく自分の教室に辿り着いた。

Stage

2D教室

【鞠】

「………………」

 VIPルームが恋しくなるぐらい、メンタルゲージが危篤。

 教室でも当然マイナスな注目を浴びるわけで……自分の席に座って歴史の用語集でも開いて気を紛らそうとする無駄な努力に私自身失笑である。

【信長】

「か、会長……!? もう退院されたんですか、大丈夫なんですか……!」

 はい、トドメー。

 ある意味一番見たくなかった顔が近付いてきて、しかも声掛けてくる。あんまイライラすると熱い涙出ちゃう気がする。

【鞠】

「……これが大丈夫に見えますか」

【信長】

「……す、すみません……」

【鞠】

「…………」

 泣きそうではないが落ち込む顔を見せられると、ますます何かイライラしてくる。矢張り書記は会計以上に私の天敵なのかもしれなかった。

【鞠】

「……野球部の状態は」

【信長】

「あ……はい。野球部は、全力で……この期末試験を受ける選択をしました。俺も、同様に」

【鞠】

「そんなの分かってます。それで、予測は立てているのでしょう」

【信長】

「……正直なところ、五分五分です」

【鞠】

「…………ふむ」

 これは、笑えということなのかな。

【鞠】

「いや笑えないし」

【信長】

「え?」

【鞠】

「何でもないです。これ以上試験前に話すことはありません。私と居る暇があるなら貴方は満点を狙う精神統一でもしてるべきです」

【信長】

「は、はい」

 ……どうやらまだ気付いていないようだけど。

【鞠】

「まあ、まだチャンスはあるし」

 人の心配をしている余裕は、今回私にも無い。今回だって結果発表式があるんだから……書記と会計に負けたりなんかしたら、恥辱そのものだ。入院してたからとか、意識は普通にあったんだし苦しい云い訳に過ぎない。

 私は、少なくともこの1年間は、勝ち続けなければいけないのだから――

【秭按】

「ごきげんよう。……久々に、全員揃っているわね。嬉しく思います」

【鞠】

「(全然嬉しそうに見えない)」

 先生なりのリラックス狙いの冗談かな。誰も笑ってないけど。特に野球部関係の人たちのオーラがヤバい。

【男子】

「やってやるやってやるやってやるやってやるやって――」

【信長】

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……――」

【秭按】

「…………」

 先生は諦めてHRを始めた。

 HRが終われば、そのまま一発目の試験に入る。

【鞠】

「(……間抜けめ)」

 きっと他のクラスでも、こんな冗談滅殺の空気なのだろう。野球部は、本気だ。

 そんな彼らを小莫迦にしながら、今回頑張ってもらう筆記具を机に並べるのだった――

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