5.30「復活」

あらすじ

「頑張らない程度に、頑張る……」砂川さん、復活します。砂川さんのピース写真を描く画力と余力などあるわけがない5話30節。

砂川を読む

Stage

十字羽大学附属病院

【鞠】

「……娑婆の空気だ」

 なんてこの先云いたくもない台詞を何となく呟いてみたが……美味しいのかどうか、分かんない。無味無臭だったが、病院の独特な空気よりはマシな感じはする。

 とまあどうでもいいことを考えながら、期末試験前日になってやっとの退院にホッとする。

【鞠】

「来てくれちゃった企業の人たちに一報入れといた方が良いかな……」

 しかしホッとする暇も無いやらなきゃいけないものリストの厚さに、矢張り私には溜息が似合うのだと諦める。

 で、そこそこ入院した結果どうなったかというと……

【鞠】

「…………見えない」

 ちょっと簡易な眼帯はまだ着けとけとか云われたが、視力を取り返す闘いは終わった。

 案の定敗戦だ。眼は、若干生きてはいるけど、1.4あった視力は限りなく0に近いことになった。これはもう失明と同等だろう。こんなことなら入院拒否っとけばもっと仕事できたのにとか考えたが、それを云ったらまた怒られそうなので胸に秘めておく。

 片目は特に二次被害を受けることなく健康らしいから、取りあえず日常生活に戻るのは大丈夫って思ってる。呑気なことだ。

【鞠】

「……さて」

 期末試験対策やるか。

Stage

砂川家

【兵蕪】

「鞠ちゃあぁああああああああああああああん――!!?!?」

 久々……といっても半月も入院してなかった気がするが、でっかい家の戸を開くと家主がこっちに走ってきた。体当たりしてくるのかな?

 そう思ったのでその場を回避したらパパはお外にダイブしていった。普通に危なかった。

【鞠】

「帰ってきてたんですね。出張お疲れ様です」

【兵蕪】

「そんなことよりッ!! 眼、眼は!!」

【鞠】

「メイドから幾らか聴いてないんですか? まあ、ほぼほぼ見えなくなりましたけど片目は」

【兵蕪】

「……………………」

 玄関前でパパは倒れた。

 ショックだったのかな。まあ、裏で病院に色んなお金を手回ししてたみたいだし、そのコストが報われなかったのは私もちょっと悲しいというか居たたまれない気持ちになるというか。

【鞠】

「すみません。私の身体は一峰の財産でしょうに、私の不注意できず物に――」

【兵蕪】

「……私は全く、鞠ちゃんを怒ってなんかいないよ。寧ろ怒ってくれていいと思いながら帰ってきたんだから」

【鞠】

「……怒る? どうして」

【兵蕪】

「また大事な時に、私は鞠ちゃんから遠く離れていた……私は鞠ちゃんを護るべき家族だというのに」

【鞠】

「パパが護るべきは私だけじゃないでしょう。最大多数の最大幸福と云うと少し違うかもしれないですけど、パパの仕事は私の想像できないほどの人数に少なからず影響を与える……なら、その責任に背を向けないことが正しいと思いますが」

【兵蕪】

「……正論を、云うね。流石、鞠ちゃんだ」

【鞠】

「いつまでも外で尻餅を着いてないで、部屋で休むべきだと思います。私も、休ませていただきます」

【兵蕪】

「うん……そうしよう。鞠ちゃん――おかえり」

【鞠】

「パパこそ、おかえりなさい」

 相変わらず過保護なパパと、それなりに予想通りなコミュニケーションをした後、私は自室へ歩いて行った。

【兵蕪】

「……………………」

【汐】

「……何やってるんですか、そんなとこで?」

【兵蕪】

「……自業自得、だが……鞠ちゃんには、「家族」というものが根付いていない。どうしたらいいだろうか、汐ちゃん」

【汐】

「……………………」

【兵蕪】

……汐ちゃん?

【汐】

何でも、ありません

Stage

砂川家 鞠の寝室

【鞠】

「……そうだ」

 荷物をベッドの上に置いたところで、思いつく。

 どれほど心配しているかは分からないけど、一応先輩にも報告しておいた方がいいだろう。

【鞠】

「……まだ、電話には早い時間帯かな」

 じゃあ、今回はメールにしてみよう。

 写メとか送ってみようか。あんまり使ったことないんだけど、この撮影アプリ。

【鞠】

「えっと……ピース」

 らしくもない茶目っ気とか出してみながら自撮りしてみた。うわ、恥ずかしい。

 しかし何枚もリテイクする気にもならないので、この写真をそのままメールに添付して、「取りあえず退院しました。ぴーす。」と先輩宛てに送信する。弄られるかな。

【鞠】

「さて、それじゃ勉強――」

 始めようと思ったらアルスが着信した。

 先輩、早い。流石管理職、着信確認が迅速だ。

【鞠】

「もしもし」

【先輩】

「― 左眼の状況は? ―」

 弄る気ゼロなのが分かる声色だった。

【鞠】

「殆ど見えなくなりましたけど、失明ではないっぽいです」

【先輩】

「― じゃあ失明じゃね? ―」

【鞠】

「ですね」

 ……私と同じことを先輩も思ってて、ちょっとほっこりした。

【先輩】

「― 賠償金とか請求できると思うけど。制度的に ―」

【鞠】

「そういうのは後で考えます。今はやることが溜まってるので」

【先輩】

「― 頑張るなよ。安静第一だからな ―」

 心配してくれている。パパよりも遠い場所で、パパよりもその場に拘束されている多忙な先輩の心配の仕方は、パパと違って私の心を温めてくれているような感じを抱かせる。いや、パパのことを悪く云うつもりはないのだけど。

 やっぱり、先輩だった。

 私は――それさえあれば、

【鞠】

「頑張らない程度に、頑張る……」

【先輩】

「― オイ ―」

 まだまだ、やれる気がする。

 まだまだやってやる。

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