5.03「最後の夏だから」

あらすじ

「俺は、紫上会書記であることを、誇りたいんだ」信長くん、紫上学園へまさかの謀反。因みに早々とバラしますが、今回は信長くんのターンな5話3節。

砂川を読む

【信長】

「俺、今年度末に毘華に引っ越すことになったんだ」

 書記は、告白した。

 この学園屈指の人望を持つ男子は、この学園で卒業しないという展望。

 それは一同にとって、決して小さい事態ではないようだった。

【深幸】

「ひ――引っ越す、だと……?」

【信長】

「ああ。……本当は、もうちょっと落ち着いた文脈の中で、云いたかったんだが……」

【深幸】

「初めて聞いたぞ……いつだよ、いつ決まったんだよ、そんなの!」

【信長】

「3月だ……引っ越すってことはもっと前から決まってたんだがな。両親の都合で、1年早まってしまって……」

【笑星】

「そ、そうだったんだ……でも、せめて茅園先輩にはもっと早く教えてあげててもよかったんじゃ……幼馴染みなんでしょ?」

【信長】

「この学園には結構幼馴染み多いんだけどな。タイミングとしては……今年度の甲子園が終わった頃を見計らってたんだ。余計な情報を、皆に背負わせたくもなかった」

【四粹】

「……しかし野球部が公認除外を受けたことで、タイミングを失っていた、ということですね」

【信長】

「はい。絶対どこかで云わなきゃっていうのは分かってたんですが……遅すぎましたでしょうか」

【四粹】

「決してそんなことは。ただ……問題はそこではなく――」

【深幸】

「――だったら、だったら尚更だろ!! 今年で、最後だっていうなら……その今年諦めるなんて有り得ねえだろ、ああ!?

 会計が、書記に詰めかかる。

 唐突な一触即発の空気。心臓殴られたみたいな不健康なドキドキが収まらないから、そういうの本当やめてほしいのだけど、間違いなく会計は今頭に血が上っている。

【深幸】

「紫上学園で……お前が、どんだけ煌めいていたことか! お前が何よりも野球でどんだけ煌めいてきたことか!! 俺は知ってる、ずっと見てきたんだ、信長!!」

【笑星】

「……茅園先輩……」

【深幸】

「そんなお前が……その集大成といっていい此処の野球部で甲子園出ないとか……抑も出ないとか!! そんなの認められるわけねえだろ!!」

 それでも、主張は明白だった。

【深幸】

「いいか、あんまりこんなの云いたかないけどよ! 今の、お前……全然、煌めいてねえよ……俺からしたら、見るに堪えないほどに……俺はそんなお前の懐刀になりたかったわけじゃねえよ!!」

【信長】

「…………」

 明らかに、親友がおかしい。普通なら取るはずのない行動を取っている。

 それを指摘する、冷静な主張だった。

【信長】

「……深幸には、本当に申し訳ないと思ってる。こんな俺に今まで附いてきてくれたっていうのに、こんな終わり方でさ」

 だが……変わらない。

【信長】

「だが……深幸には、会長がいるだろう。だから、大丈夫だ」

【鞠】

「ちょっ……」

 変わらず、コイツはおかしい。

 遂には私まで巻き込んできやがった。

【深幸】

「は……はあ?」

【信長】

「俺は、お前の望む俺にはなれなかった。俺も、これまで俺が望んできた俺を手に入れることはできなかった。だけど……現状は、決して悪いものじゃないって、俺は思ってる」

【笑星】

「ど、どういうこと? だって野球部無くなっちゃってるんだから、少なくとも先輩は辛いじゃん……?」

【信長】

「勿論、全然堪えないと云えば真っ赤な嘘だよ。だけど……それよりも」

 ……私に、視線を送った。

【信長】

「俺は、紫上会書記であることを、誇りたいんだ。今、俺にとって一番守りたいのは、コレなんだ」

【鞠】

「……………………」

 それは――どういう意味だ。

 何で今私を見たんだ。

【深幸】

「……分かんねえ! 変だよ……俺が変なのか……? いや、それでも絶対お前は変だよ信長! 紫上会で居るのと、野球部で居るのは、両立可能なことだろ、去年もやってきたじゃねえか!」

【信長】

「……去年とは違うんだ。あまりにも、全くもって。分かってもらえなくても、この際構わない、ただ……俺は、絶対譲れないんだ。本当にすまない……深幸」

【深幸】

「謝んじゃねえ!! 認めねえぞ絶対……お前、絶対後悔する……!! 一度しかない夏なんだ……それはお前だけの夏じゃない、皆の夏だ、俺の夏なんだよ!! 諦めねえ……こればっかりは俺も譲れねえよ……!!」

【笑星】

「え、ちょ、茅園先輩……!?」

【鞠】

「(うわぁ……)」

 会計、激怒状態で去って行った。

 鞄も持ってたし、多分今日はもう帰ってこないだろう。

【信長】

「…………深幸……」

 一方の書記は、グッタリとソファに倒れ座った。

 この場の誰もが、そうなるぐらいのエネルギーを消耗しただろう。私ももう仕事したくないもん。何やってくれてるんだチャラ男め。

【笑星】

「うわー……これ、ヤバいんじゃ……玖珂先輩」

【四粹】

「……荒れますね、暫く。学園中が」

【笑星】

「だよねぇ、あの2人が……だなんて」

【信長】

「本当、申し訳ない……できるだけ穏便に済ませたかったんだが……正直、予想してなかったわけじゃない展開になってしまった」

【笑星】

「じゃあ仲直りしてよー……」

【信長】

「……今まで対立したことはなかったが……間違いなくお互い、譲らないものはとことん譲らない」

【笑星】

「もーーーう……!!」

 ……本当、もーーーう、だ……。

 この人の所為で――この夏の私は、酷い目に遭うのだから。

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