5.26「救済措置」

あらすじ

「一言で云うなら……貴方への仕返しです」砂川さん、勝者の理を発動します。超展開なのか地味なのかよく分からなくなってくる5話26節。

砂川を読む

【信長】

「間違いありません、勿論中身は確認してませんが――」

 ……そこに書かれていたのは――

「野球部処罰及び救済措置概要」

 6月5日昼休みに体育館にて開かれた紫上会会見における、紫上学園非公認団体である3年Dクラス児玉願斗氏をリーダーとする野球団体(以降「野球部」と表現)の虚偽的主張及び会長に対する暴行に対し、紫上会は野球部に対し以下の期間の活動自粛の処罰を決定します。

 但し、以下に説明する「救済措置条件」を満たした場合、紫上会は野球部に対し判決日に「救済措置」を行います。この場合、紫上会は6月26日に野球部に対する活動自粛の解除を行い、また同日に限り団体活動誓約書提出を認めます

《処理対象者》

野球部(平保31年度現在、紫上会の管理する部活・団体入部届にて届出している者を部員と判定します)

《活動自粛》

・6月6日から8月31日

・2人以上による野球活動を禁止します。個人での運動は特に規制しません。

《救済措置条件》

・6月19日から6月21日に実施される1学期末試験において、対象科目全てで野球部員全員が50%以上得点する

・6月19日から6月21日に実施される1学期末試験において、野球部全体の対象科目全ての総得点平均が75%以上である

《対象科目》

・共通クラス:文学2系統、数学2系統、言語、社会 2系統、理科 2系統、保健体育、技術家庭

・文系クラス(3年):文学2 系統、言語、社会2系統、保健体育、技術家庭

・理系クラス(3年):数学2 系統、言語、理科2系統、保健体育、技術家庭

※共通クラスは多系統科目(文学、数学、社会、理科)の場合、受験系統を100点満点で平均換算する。よって合計満点は700 点である。

※期間内の試験のない芸術や道徳などの教科は対象外。

《救済措置判決日時》

6月26日の13:30、体育館にて行う。

以上

【信長】

「――――」

 ――え?

【男子】

「松井……?」

【男子】

「松井まで呆然としてね……? け、結局何が書かれてるんだよ……?」

 これは、確かに紫上会が用意したものだ。

 会長ただ1人が持つ、会長印の押された公式の用紙だ。

 つまり――正真正銘の、返答。

【信長】

「救済措置――」

 莫迦な――

 そんな莫迦なッ!?

【信長】

「ッ……!」

【児玉】

「松井!?」

 思わず、走る……!

 教室を抜け出し、走り……階段を飛び降り、校舎を出て、紫上学園を出て、外へ――!

【信長】

「何で……どうしてッ――!?」

vsmari

Stage

十字羽大学附属病院

【菅原】

「ほえー……私とは全然書式が違うのねー……別流派?」

【六角】

「お前のは流派っつーかただの素人自己流だろ。村田いっつも嘆いてたぞー作り直したいって」

【鞠】

「…………」

 学校はどうした、この人たち。

 サボってまで私であそびたいのか。つくづく酷い人格だ。

【菅原】

「しかし、可哀想に……眼帯のこの重厚さ、ガチっぽさ……痛々しいわ」

【鞠】

「(嘘つけ)」

【六角】

「で、実際どうなのよ症状は? 赤羽くん赦す気ある?」

【鞠】

「云う必要が私にはありません」

【六角】

「菅原ー、赤羽くんただの自宅謹慎だってよー。お前だったらどうする?」

 知ってんじゃん。何故訊いた。

【菅原】

「停学程度で赦すの? 私だったら表向きには転校を勧める感じでソッと退学させるかな。六角は?」

【六角】

「俺が直々にぶん殴る」

 それ何の解決にもなってねえ。

【菅原】

「……無興味ってことなのね。ブレないのね」

【鞠】

「どう評価しようが勝手ですが、ケチはつけないでください。これ以上の厄介ごとは本当、要りませんから」

【菅原】

「まあ、野球部以上の厄介事はなかなか無いと思うけど――」

 ――がらららッ!!

【信長】

失礼しますッッ!!!

 ホント失礼。

【六角】

「おお、松井じゃん。どうしたそんな息切らして……もしかして走ってきた?」

【菅原】

「松井も会長を弄――見舞いしにきたの?」

 今弄りに来たって云い掛けた? この人何で人気あるの?

 ていうか書記、私を安静にさせる気無いよね。

【信長】

「はぁ……はぁ……か、会長――」

 そして書記は先客2人には目も暮れず、私を一直線に見詰めている。

 朝は視線泳がせてたくせに……そこまで真っ直ぐ見られると、いきなりなのもあって私も何か視線を外せない。

【信長】

「――救済措置って、何ですか……!?

 ……ああ……それで、走ってきたのか。

 学園抜け出してまで確認しに来ることかなって疑問もあるにはあるけど、まあ生殺与奪のタイミングだから、細かい事を気にしてもいられないか。

【2人】

「「救済措置?」」

【鞠】

「何と云われても、そのままの意味で別にいいじゃないですか」

【信長】

「良くない!! 貴方は……一体何を考えているのですか!? 俺たちは……俺は、会長のことを――」

【鞠】

「そんなの、貴方たちの考えでしかないでしょう。私がどうしてそれに合わせなきゃいけないんですか」

 何かこの人居るだけでも室温上がってる気がする。走ってきたからかな。

 ちょっとは自分で考えて理解しろとも思うが、早々立ち去ってもらいたいのが本心。もうちょっと説明してやった方がいいかもしれない……が、正直アレをよりにもよってコイツに説明するって行為はだいぶ嫌だ。

【鞠】

「……一言で云うなら……貴方への仕返しです」

【信長】

「……え?」

【鞠】

「これなら、何の問題も無いでしょう? 貴方が私に、その権利があると考えるなら」

 だから、まあ、テキトウに? 説明してやることにした。

【鞠】

「それに、あんな事をやらかした野球部に裁き無しどころか簡単に恵みを与えてしまうというのも、紫上会の品位に関わるでしょうから。じゃあもう一勝負設けようと」

【信長】

「――勝、負……」

 丁度、期末試験が近々控えていた。

 学力至上主義に片脚突っ込んでる紫上学園では、期末試験は当然実力試験には遠く及ばないにしても、恩恵も幾つか用意されているこれまた大きなイベント。

 この舞台を……貴方も大好きな、勝負に変える。

【鞠】

「条件を達成できたら貴方がた野球部の勝ち。達成できなければ負け。達成できたら甲子園予選に出場できるし、達成できなければ3ヶ月程度の活動禁止で今年度の甲子園への道も途絶える」

【六角】

「勝負って……これまた酔狂なこと、やるもんだなぁ。意外だわ」

【鞠】

「…………」

 まあ、私も似合わないとは思ってる。しかし一つの方法として一応は頭に定着していたということだ。

 真理学園では、権力者と非権力者との間で衝突が発生した場合、各々の願いを懸けて何かしら勝負を設ける制度が立てられている。

 大切だというなら、他の何をも壊してでも守り抜け。

【鞠】

「歴史、文化、実績、価値を背負うというなら、貴方がた野球部はこの勝負、勝ちに行かねばならないと思いますが、どうですか」

【信長】

「……分かりません……」

【鞠】

「何が」

【信長】

「それの、何処が……俺への仕返しに、なるんですか……デメリットは、寧ろ会長にばかり――」

【鞠】

「……もはや貴方に、私を心配する資格すらあるか疑わしい」

【信長】

「ッ……」

【鞠】

「紫上会は回答しました。後は……野球部がどうするか。貴方がどうするか。今度こそ――嘘偽り無し・・・・・に選ぶように。以上」

【六角】

「……なら、こんな所でのんびりしてる暇は無いよな松井。ほら、帰った帰った!!」

【信長】

「え――ちょ――!」

 前会長に押されて追い出される形で、書記は立ち去っていった。

 ていうかお2人も早く帰れ。

【菅原】

「……ふぅん、野球部への処置、そんな感じにしたのね」

【鞠】

「……何ですか」

【菅原】

「ケチは付けないけど……確かに、それのどこが松井への仕返しとやらになってるのか、分からないわ。何で仕返しすんのって疑問もあるけど、野球部が復活するチャンスを与えるならそれは松井への助けにしか思えない」

 ……まあ、そこが思考の限界だろう。奴の深層を知らない者にとっては。

 アイツが……今回のコレに、不満を覚えない筈がない。いつ気付くかは知らないけど、二重の冒涜をあの書記が見逃す筈がない。

 それに――

【鞠】

「……はぁ……いい加減、泣きそうな顔とかやめてほしい……」

【六角】

「ん?」

【鞠】

「何でもないです。はぁ~……」

 溜息。

 どう足掻いても無関係ではいられないこの1年の私に、溜息を送ってイライラをやり過ごすのだった。

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