5.25「不穏な空気」

あらすじ

「……さあ、開くぞ」野球部、封筒を開きます。作者は綺麗に封筒を開けるのが本っっっっ当に苦手な5話25節。

砂川を読む

vsnobunaga

Time

11:00

Stage

紫上学園

 ……あの後、俺たちは遅れて学校に着いた。

 そして、予想に難くない空気をすぐ察知する。

【笑星】

「何か……変、だよね」

【深幸】

「正直もっと酷い状況かもって思ってたけどな」

【笑星】

「例えば?」

【深幸】

「校舎が記者に囲まれてるとか」

【笑星】

「うわー……」

【深幸】

「会長や六角先輩たちが上手く記者とやり取りしたってことなんだろうな。マスコミの特性上、アレを完璧に隠蔽するのは無理だろうが、異様な拡散のされ方は防いでる」

 野球部が会見でやったこと、そして赤羽が会長を殴った姿は、とてもそのまま使える映像ではない。ニュースになるにしても、文章で説明することになるだろう。元々殆ど全てが雑誌記者であったようだし。

 だが、その程度のぼかしでは世間が抱きうる紫上学園の特性への偏見はどうしても大きくマイナスになるだろう。そういった先入観で判断する人々に囲まれることがどれだけ厄介であるのか……会長はその身で知っている。

 野球部が。赤羽が。紫上学園の文化自体が、苛めを受ける。そんな事態を防ぐこと。入院まですることになったその身体よりも、先々のことを優先して会長は、動き続けた。実際どういった方法で、この社会では結局一学生の身分でしかないにも関わらず、マスコミの力をここまで抑圧したのかまでは分からないが……矢張り会長は凄かった。

 しかし、世間が知るよし無くても、会見に足を運んでいた学生たちは知っている。どんだけヤバいことがあったのかを……会長が今日どうして欠席しているのかを、その目で。

 一線を越えてしまった野球部に――未来は無い。

 不穏な空気を一言で説明するなら、きっとコレだった。

【信長】

「…………」

【男子】

「松井……! だ、大丈夫、なのか……?」

 廊下でも、教室でも、多少騒がれた。今回の騒ぎ一連には総て俺が絡んでいることは皆分かっていたが、昨日俺がどんな姿で体育館を去ったのかを、知ってる人も居るには居る。

 阿部が声を掛けてくれた。どうしたものか、悩みながらも。

【信長】

「ああ……その、本当に申し訳ない」

【男子】

「謝るなよ、お前は何も悪くない……」

 いや、悪いのは俺だ。

 俺が皆を裏切ったからこうなった。俺がこんなだから……。

【男子】

「……ほんと、悔やまれるな……カッコ悪いにも程がある、野球部。最初からアイツを認めていれば……」

【信長】

「…………」

 当然ではあるけど、阿部も相当に落ち込んでいる。甲子園を目指してきたのは俺だけじゃない、野球部一人ひとりが夢見て走ってきたんだ。それが……こんな終わり方をしてしまっては、悔やみきれないだろう。

 励ましの言葉は思いつく。だが、俺はそれを云える立場じゃない。

 そのうえ謝っちゃいけないんじゃ、俺はもう何も出来ることが――

【信長】

「――そうだ、阿部。キャプテンにコレ、渡してくれないか?」

【男子】

「……何だそれ?」

封筒

 朝、会長から預かった封筒を阿部に渡す。

【信長】

「会長から。恐らくは……」

【男子】

「返事、か。早いな……いっそ早く殺してくれて感謝すべきか。分かった、でも……お前も来いよ、野球部集合の時は」

【信長】

「……ああ、了解した」

 ……………………。

Time

13:15

Stage

空き教室

 早速昼休みに、大きな空き教室を借りて野球部は集合した。

 空気が……重い。一人ひとりの想いの和が、視線を床へと下げるようだ。

【児玉】

「……前を向こう」

 だが、それでも前を向く。皆の視線が、キャプテンに集まる。

【児玉】

「この約2ヶ月は、惨憺な結果だった。それもこれも、皆を導けなかった俺の責任だ。申し訳なかった」

【男子】

「そんなこと……っ! これは、俺たち皆でやったことですキャプテン!」

【児玉】

「……ああ。皆で選んだ道。悔いもあるし未練もある、沢山の人に迷惑をかける最悪な道だった……気休めにもならないが、この酷い経験をどうか忘れないでほしい、それが各々の将来に強く役立つ道標となってくれるだろうから」

 この面子での野球部は、もう終わり。

 この組織自体が解体されることだろう。だから一度必ず個人に戻る。

 それぞれの人生に……今回の事件はどう影響していくのだろうか。果たして未来に明るい先は残っているのだろうか。

 分かるわけもなく、自信を持てるわけもなく……ただただ、反省して、前を見るしかない。

【信長】

「……………………」

 だけど……そんなの、できっこない。俺には――もう何も、見えない。

 どうやって俺は残り半年を過ごす。どのように此処を去る。新たな学園で、どんな1年を過ごす。その先は――

 思考に、気力が湧いてこない。キャプテンの云っていることは現状最適解の筈なのに、俺はその軌道に乗ることすらできそうにないのだった。

 前を向いたって……何処にも、何も無いのだから――

【児玉】

「……さあ、開くぞ」

 キャプテンが、封筒の糊付けを開封し、中から1枚の紙を取り出す。

 4つ折りにされたそれを、静かに、ゆっくりと……開いていき……

【男子】

「「「…………」」」

【児玉】

「……………………」

 裁きの文面の内容を、確認していく――

【児玉】

「――!?

 ――軈てその顔は、驚きに満ちた。

 それを俺たちは、不自然に思うほかなかったと思う。誰よりもあらゆる覚悟をしていた筈のキャプテンが、どうして驚いている……?

【男子】

「キャプテン……?」

【男子】

「えっと……どうしたんですか……?」

【児玉】

「…………すまん、俺には……ここに書かれていることが、正直よく分からなくてな……」

 野球部に対する処置、それが書かれている筈のものをキャプテンは皆に発表できずにいた。

 ……何だ、何が起きている?

【児玉】

「松井、お前なら、分かるか……?」

【信長】

「ど、どういうことですか――?」

 教卓前に立っていたキャプテンのもとへ移動し……その紙を受け取る。

【児玉】

「コレは本当に、会長から受け取ったもの、なんだよな」

【信長】

「間違いありません、勿論中身は確認してませんが――」

 そして、俺も……その内容を、知る。

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