5.24「そんなわけない」

あらすじ

「「すいませんでしたーーーー!!!」」信長くん、家から出ます。本気の謝罪をできるほどのエネルギーが作者にはきっとない5話24節。

砂川を読む

【???】

そんなわけない!!!

【深幸&信長】

「「――!!」」

 ……俺でも、信長でもない声が背後から。

 振り返る……其処に居たのは――

【笑星】

「絶対、そんなわけない……茅園先輩は間違ってなんかない」

【深幸】

「え、笑星……!? どうして――」

 俺の疑問は笑星には通らず、信長にズカズカと歩いて行く。

 いとも、簡単に。

【笑星】

「間違ってるのは……松井先輩だよ!!」

【信長】

「――――」

【深幸】

「ちょ――」

 容赦の無い、1発だ。断言。

 どこから話を聴いてたのかは分からない。どこまで理解しているのか分からない。

 だが、俺と違って……笑星は、変わらない笑星だった。

【笑星】

「だって、野球が好きなら、好きでいいじゃんか。野球部の人達が好きで一緒に活動したいなら、すればいいじゃんか。野球がやりたいなら、またやればいいじゃんか」

【信長】

「だ――だが!」

【笑星】

「紫上会で居たいなら……居ればいいじゃんか」

【信長】

「ッ――!」

【笑星】

「会長を傷付けちゃったなら、謝ればいいじゃんか! ほら、ちゃんと見てよ! 道が無くなった……? そんなことないよ、一つも道は無くなってなんかないよ、まだ絶対にあるよ!! ちゃんと見てよ!! 松井先輩が、野球部が、俺たちが皆欠けなく笑ってる未来を!!」

【深幸】

「笑星――」

 ……そうだ。

 何やってんだよ、俺……!! 瑠奈に励まされたばかりじゃねえか、いい加減目覚めろ!!

 昨日は終わった。そしてもう、新しい一日が始まってる。まだ何にでも手を伸ばせる、そんな朝が来てる!!

 だったら――

【深幸】

「……信長、制服に着替えろ」

【信長】

「え――深幸?」

【深幸】

「え、じゃねえよ学園生。行くぞ、学園に……いや、その前に――アイツのところに!」

【信長】

「アイツって――ま、まさか!」

【深幸】

「兎に角やれることをやるんだよ!! まだ終わってねえ……なら、途中でお前を見捨てる俺じゃねえ!! 懐刀なめんなこの野郎!!」

 今度こそ……この手を、親友に。

 無理矢理にでも立たせて、眼前で、約束する。

【深幸】

「お前が困った時には、絶対手を貸すんだよ!! これまでも、これからも……どんなことでも!!!」

【信長】

「……………………」

     
vsmari

Stage

十字羽大学附属病院 VIPルーム

【鞠】

「……………………」

 ……えぇぇぇぇ……。

【笑星&深幸】

「「…………」」

【信長】

「…………」

 えぇぇぇぇええええー……。

 朝っぱらから、何この気まずい空気。

【鞠】

「1限、始まってる――」

【笑星&深幸】

「「すいませんでしたーーーー!!!」」

 えぇえええええええええええ???

 何これ、嫌がらせ? 大学病院に来てまですること?

【鞠】

「……徒な謝罪とか私されても甚だ困るだけですが」

【笑星】

「俺たちが勝手に色々した所為で会長怪我しちゃったもん……!! ていうか眼帯!? それ大丈夫!?」

【鞠】

「別に貴方たちが気にすることでもないです。それよりも此処に居られる方が――」

【深幸】

「……信長のことを一番分かってたのは、お前だった」

 ああ帰る気ないねこの学生たち。

【深幸】

「お前は……信長のこと、守ってくれようとしてたんだよな。それをすべきは、俺だったのに……その邪魔をした、ってことだよな。すまなかった」

【鞠】

「…………」

 この人にガチで謝罪されるとか、朝食吐きそう……なんてコメントをこの空気で返せるほど私のメンタルは鉄じゃない。

 いい加減斜めに受け取るのはやめるとして……この様子からして、多分雑務と会計は、それなりに今回の構造を分かり始めたのだろう。

 なら、私よりも遙かに先に行っている。

【鞠】

「莫迦ですか。一番分かっているのは間違いなく懐刀たる貴方でしょう」

【深幸】

……!

【鞠】

「……貴方たちがどういう関係でいるのかとか、私どうでもいいので」

 ……何てコメントしたらいいのか分かんない。早く登校してくんないかな。特に、

【信長】

「……………………」

 一番気まずそうにしてるそこの親友とか。

【笑星】

「はいはいはい主役」

【深幸】

「ほれいい加減覚悟決めろって」

 そんな書記を遠ざけるどころか私のベッドに触れるってレベルの距離間まで押してくる他2人。日に日にコイツらの嫌がらせレベルも上がってる気がする。伊達に放課後あの空間で暇を持て余してはいないということなのだろうか。

 なんて現実逃避をしていられるほどこの気まずさから脱出する敏捷性を私は持たないので、お互い視線をテキトウに泳がせる時間が長く続く。2人は口出ししてこない。

 ……………………軈て。

【信長】

「……嘘を――」

【鞠】

「……!」

【信長】

「嘘をついて……裏切って、ごめんなさい」

 決してハッキリとはしてないが、何だかしっとり耳に入ってきた。

 謝罪。

 この私にとって、そんなものに、意味は無いと考えている。終わってしまったことはもうどうしようもないからだ。

【鞠】

「……………………」

 だから、そんなどうしようもないことを、徒にほじくり返すような行為。それが謝罪。

 これは私への追い打ちに他ならなかった。

【鞠】

「……私のことを慮るなら、こうして“敵”に見舞いに来られてる私の気持ちをまず慮って……」

【信長】

「……」

【鞠】

「――これ」

 棚に置いていた、封筒を手に取り、視線を通わせず書記の身体に押し付ける。

【信長】

「これ、は……」

【鞠】

「……昨日のあれこれに対する紫上会のリアクションをまとめたものです。そのまま、野球部の部長に渡しておいてください」

【笑星】

「え――ちょ、一夜で作ったの!? てか会長、まさか此処で仕事してたの!? ダメだよ安静にしてなきゃ!! 俺たちがやるって!!」

【鞠】

「ソレが一番安静にできないので。そして安静にしたいので本当さっさと登校してください」

 しっしっ。

 軽くジェスチャーしてみると、まああちらも邪険にしきれないところがあるのか、それとも気まずい空気にあちらも満腹状態だったのか、大人しく退散していった。

【信長】

「…………失礼、しました――」

【鞠】

「…………」

 ……はあぁぁぁぁ、もう……。

 思ってたよりは、元気だったじゃん書記……ちょっと気にかけてて損した。

 まあ懐刀さんが居るんだから最初からそんなの不要だったんだけど。端からみれば私もたいそう間抜けに映っているかもしれない。

 ……それにしても、思いの外、早く渡してしまった。出来たばかりの、アレを。

封筒

【鞠】

「さあ、どうなるかな……」

 ――どうにでもなれば、いいと思う。

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