5.21「泣かせたかったわけじゃ」

あらすじ

「何か、こうして寝転んでて、変なこと考えちゃって」砂川さん、まさかの入院。物書きが大好きな作者としては眼を含めた健康は本当に大事にしたいものな5話21節。

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Time

21:30

Stage

VIPルーム

入院1

【鞠】

「……VIPルームって何?」

 取りあえず思ったことを呟いてみた。

 それからすぐそこの窓から外を眺めてみた。寝てるこの体勢だと暗い空しか視界に映らない。

 というかこう、片目だけだとどうしても視界が狭いのか、いきなり目が悪くなった感覚を持ってしまう。右目は別に異常見つかってないのだけど。

【鞠】

「……あー……」

 何だろう、この、凄まじく持て余してる感じ。落ち着かないし、かといって暴れると怒られるし。

 今日は何か、私怒られ過ぎてる。私そんな悪いことしてないのに。

 まず、野球部が呼んできた記者たちを片付けるという作業をこなしてから、5限過ぎた状態で保健室に顔を出した。顔殴られて鼻血も出たが、それより左目が痛くて仕方無かった。そしたら何故早く来ないと怒られた。

 で、診断が始まったんだけど、目開けられないし、そういえば左目何か熱い涙が出てるような感じがしたなって答えたらめちゃくちゃ怒られた。

 で、眼科を受診することになったんだけど、何故かいきなり十字羽大学の附属病院に連れてかれた。ここって確か世界最先端の病院だった気がする。取りあえず相当ヤバい症状じゃないと門前払いされる場所だと先入観で持ってたけど、普通に通された。

 それから診断で保健室の先生に答えた内容を繰り返したら再び怒られる始末。

【鞠】

「ていうか入院て」

 眼科って視力検査かコンタクトレンズ購入ぐらいのイメージでいたんだけど、そんな私だから随分レアな体験をしてしまっている心持ち。勿論嬉しくない。

 診断結果だが、一言で云えば左目が眼球破裂。どうやらこの眼球破裂という症状は眼科で扱う外傷でトップクラスの重症状らしい。まあヤバめなのは名前から想像できるけどもね。凄い四字熟語だね。

 これは車と衝突するとかそんぐらいの衝撃を受けるとよく発生するらしいけど、私はただ殴られただけである。まああの時私、万気相マナとか全然纏ってなかったし、無防備でガチギレ運動部のダイレクトアタック喰らったらあり得るか。1発目もめちゃ痛かったけど、こちらによる外傷は大したことはないようだった。

 さて、眼球破裂を起こしたらどうなるかというと、眼球の中身が外に流れ出ちゃうとのこと(熱い涙っていうのは多分コレ)。こうなると完全復元はまず無理で、すんごい視力低下あるいは失明の後遺症を発症するのが殆ど、と私は聴いた。おまけに私、そっちのけで記者の相手をしちゃってたので、担当してくださった医師の経験的には「諦めも肝心」ってことだそう。

 取りあえずお医者様たちが全身全霊で縫合手術して時間を懸けて足掻いて、それから経過を見守る必要があるってことで短期入院することになったのだった。この間にも追加手術を検討するなりしてできるだけ元の状態への回復を目指すと。

 ただ矢張り前提で、失明の覚悟はしておけ、ということ。

入院2

【鞠】

「……えらいことになった」

 ああいやホントに、ヤバすぎる。面倒なことが大量発生してしまった。

 ……そして、もうこの先どうすればいいのかとか、私には分からない。

【鞠】

「…………ここって……アルス、使えるよね」

 丁度、いつも通りの時間だったのに気付いて……私は病院の匂い100%なベッドの中で身体を静かに動かし、隣の小棚の上に置いたアルスを起動する。

 もうこうなると、他力本願。

 ……頼れる人は、貴方だけだ。

【鞠】

「最初から……そうだった筈なのに」

 ……………………。

【先輩】

「― もしもし。どした? ―」

 呑気な声が耳に入ってくる。

 私を癒やす最大の要素。

【鞠】

「…………」

 晩ご飯を食べて、また今日も妹さんと一緒に本でも読んでたのかな。

 ……先輩が隣に居たあの時間を思い出す。会う場所はいつも図書館だった。

 それ以上先を回想するのは――流石に拒否した。

【鞠】

「えっと……ちょっと、声が聴きたくて」

 何となく、ちょっと明るい声を心懸けてみた。もっと先輩の声が沢山聴けたらな、と。

【先輩】

「― ……何があった。全部話せ ―」

 声色がガラリと変わった。うん、即行でバレた。

 この人の嘘発見能力、一体どうなってるんだろう。考えても無駄なことは100回ぐらい結論づけてきた。

 だから諦め一択。何から話したものか、分からないけど……。

【鞠】

「色々、あってですね――」

 先輩なら、全部、受け止めてくれるだろう。

 ……この人だけは、絶対に。

     

【先輩】

「― ………… ―」

 一通り、話し終えた。そこそこ前後関係を整理して話せなかったと思う。グダグダな説明だったけど、先輩のことだから理解してくれただろう。

 ただ、相槌もそこそこに、先輩は黙ってる反応をみせていた。今一体、何を思っているのか……私では分からない。

 何て奴らだと怒ってるのか。左目可哀想と悲しんでるのか。災難だったなと喜んでるのか。

 ……できればいつもみたいに笑ってくれるぐらいが、丁度いいんだけど。

【先輩】

「― ……砂川 ―」

 ああうん、笑ってないのは確定したガチめの声返ってきた。

【鞠】

「は、はい」

【先輩】

「― お前に今、一番辛い気持ちを強いてる要素は何だ。ものによっては、俺が処理する ―」

 ……冗談無し、本気の声。ここまで来ると私でも、誰でも分かるくらい露骨。とても話を逸らす勇気は持てない。というか私から切り出したことでもあるし。

 ただ……正直、それはあんまり、聴きたいものではなかった。

【鞠】

「ミスったこと、ですかね……」

【先輩】

「― ……ミス、か? ―」

【鞠】

「私、人を見る目が無いんだな、って」

 ああくそ、また思い出してしまう。

信長混沌

 壊れた左目にも未だ焼き付いてる気がする、刹那の光景。

【先輩】

「― ……そんなの、当たり前だろ ―」

【鞠】

「当たり前なんですか」

【先輩】

「― お前今まで、人を見る、なんて人事的なことしてきたのか? あれは経験だぜ ―」

【鞠】

「なるほど。道理で」

 分かっていないのは、私の方だった。

 確かにちょっと考えてみればおかしい話だ。4月初めて会って、特に親しいわけでもない彼のことを、幼馴染みである親友や野球部連中よりも理解できている、なんて。

 まあ、奴らも奴らで大事なことに気付けていなかった、というのは変わらないが。

 ていうか、本当……

【鞠】

「懲りないなぁ……私――」

【先輩】

「― お前はソイツをどうする ―」

【鞠】

「…………」

 どうする。どうしたいのか。

 またそれだ。

 自分がどうしたいのか。

【鞠】

「そんなの、分からないです」

【先輩】

「― 恨んでるんだろう? 今回の件で、お前が一番恨むのは―― ―」

【鞠】

「……まあ、物凄い台無し感ですね」

 今こんなに私をブルーに沈めてるのは間違いなくアイツだ。

 恨んで当然。殺意を抱いたって……。

 けど。

【鞠】

「何か、こうして寝転んでて、変なこと考えちゃって」

【先輩】

「― どんなこと? ―」

【鞠】

「私は別に……泣かせたかったわけじゃ、ないのに」

【先輩】

「― ………… ―」

 ただ……守りたかった、だけなのに。

 今回については、味方、だったのだから。

 ……本当に?

 今回については? 私は本当に、骨の髄まで一色でそう思っていたのか?

 彼は敵――それを、一時でも忘れていなかった、って胸を張って云えるのか?

【鞠】

「呑気ですね、私……他人のことを莫迦莫迦云えない、私もたいそうな莫迦ですよね」

 笑い飛ばせればいいのに。

 痛みが残ってて。気怠くて。

 ――焼き付いていて。

【先輩】

「― ……いいんじゃないか? 無個性よりずっとマシだろ ―」

【鞠】

「……そう、ですかね」

【先輩】

「― ていうか、俺はお前のこと断じて莫迦だと思わないし。じゃなくても莫迦でもいいじゃん、俺は笑わないし ―」

【鞠】

「先輩……」

【先輩】

「― お前が本気で求めるなら、すぐに駆けつけるし、紫上学園だろうが関係無く、お前の敵を殲滅する。俺は絶対に、砂川の味方だから ―」

 ……本当、過保護なのだから。

【先輩】

「― だから、好きにやっていい ―」

 変わらないのだから。先輩は。

 けど、ソレも変わらない。その先輩もまた素敵かもしれないが、それよりも、私は見たくなかった。

 ……だから、絶対に呼ばない。

【鞠】

「……先輩は、全國大会の準備で忙しいでしょう。取りあえず、手足は元気ですから、まだ仕事はやれます」

【先輩】

「― いいのか? ―」

【鞠】

「入院かつ眼を安静にする中で、どこまでできるかは分かりませんけど……先輩だって、それくらい気合いで何とかするんですよね」

【先輩】

「― いや俺はするかもだけど、お前は安静にしろホント。俺はそこまでを求めたわけじゃないんだからな ―」

【鞠】

「私も……調子を、取り戻さないと」

 そう、確かにそうだ。好きにやっていいはずなんだ。

 私は最も、勝者であるのだから。

 唯一無二の覇者なのだから。だから――

【鞠】

「今度こそ……片付けます」

砂川着手2

【鞠】

「私が、全部やる」

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