5.19「懺悔」

あらすじ

「副会長を信用せず、更には彼を信用せず、自分たちの夏を犠牲にしてでも私を潰す価値など、あるわけがない――!!」砂川さん、野球部と対峙。テレビで見る会見とは全然違いますが、要は紫上会と野球部の一大決戦の場なんだとご理解くださいな5話19節。

砂川を読む

【鞠】

「――それでは、紫上会臨時会見を始めます」

 ステージ裏から出てきた途端、シャッターの音がマシンガンのように放たれる。

 こんな感じで、紫上会会見が映像として外部者が記録するのは私が知る限り初めてのことな筈だ。まああの過去の資料信用ならないとこあるんだけど。

 と、そんな横道に逸れたことはいい。今回は椅子もテーブルも用意していない。話を聴くだけ。私はこの会見を即行で終わらせる気でいるのだから。

【鞠】

「そちらの要望通り、会見という形でこの場を開きましたが、流れとしては要請側の内容を聴き、それに対しリアクションを返す、というだけです。昼休みも有限です、故に何か云いたいことがあるなら簡潔にお願いします――」

【児玉】

「…………」

 ……1人が挙手した。

【鞠】

「…………」

 正直、その姿を見て私は不意をつかれた気になった。

【鞠】

「どうぞ」

 マイクを渡そうかと思ったが――それよりも前に、野球部の部長は喋り始めた。

 罵倒か。非難か。

【児玉】

「――自分たち野球部には、歴史があります」

 いや……違う。

【児玉】

「元々ここの野球部はそれほど強くはなかったそうです。しかし……この学園には、制度もあって負けず嫌いが多い。だから……予選敗退なんて、屈辱・・だった」

【信長】

「……!」

 私が今まで接触してきた、ソレでは、ない。

【児玉】

「だから先輩がたは死に物狂いで、闘って、努力して、繰り返してきた。その始まりは知らない……しかし、今ここに居る自分たちの多くはB等部から野球部に入ってました。だから、自分が2年の時……死に物狂いで練習しまくっていた先輩がたと共に甲子園出場を果たせた時、思いました。この、強くなっていく、勝ちにいく野球部を、紫上学園野球部として残し続けたい、と」

 思っていたのと……違う……

【児玉】

「自分たちが上級生になった時も、先輩たちの思いを背負い、甲子園に出場するのだと。……自分たちだけじゃない、この紫上学園野球部には、沢山の方々が注目してくださっている。自分たちを評価してくださっている! その証拠が……こうして自分たちがもはや野球部でないことを知って、駆けつけてくださった方々です!」

【周囲】

「「「(ざわざわざわ……)」」」

【児玉】

「しかし――自分たちは砂川会長、貴方をどうしても、認めることができなかった。野球部もだが……紫上学園という場所自体が、自分たちにとっては故郷だったのです。その故郷の、自分たちの上に立ち、よりこの場所を素晴らしくしてくれる、そんな存在は!! 松井以外に、考えられなかったんです……他の学生たちよりも、松井と共に時間を過ごし、目的の為に誰よりもどこまでも努力できる、そんな輝いた松井以外にない、自分たちは尚更そう思っていた!!」

【野球部】

「「「…………」」」

【児玉】

「だから、せめて自分たちは……松井の味方であり続けたい、松井が頂点たつ世界を絶えないよう夢見続けたいと。それは……結局、夢でしかないことだと気付いた時には、もう遅かった」

 全然、違う。何だこれは。

【児玉】

「誓約書の提出期限はとっくに過ぎ、クーデターを求める声は、紫上学園の日常が守られていく中で薄まっていった。しかし、今更引き返せるわけがない、やり通すしかない、そう虚勢を張るのは……今日きりにします」

 何だコレは……!

【児玉】

砂川会長、自分たち野球部には歴史があり、文化があり、実績があり、価値があります!! だから――お願いします!!

【笑星】

「ええっ!?」

【深幸】

「おお……」

【六角】

「……児玉」

 部長が……

 野球部が、一斉に、頭を下げた。地面に頭を……

 その姿に、シャッターが一斉に切られていく音。

【鞠】

「な――」

【児玉】

「俺たちが全面的に間違っていたこと、本来お願いする資格など無いこと、大規模な組織としてあまりに見苦しく横暴な行為であることは承知ですがッ、どうか――甲子園予選に、出場する許可をいただけないでしょうかッ!!?」

 何だ――この、とんでもない手のひら返しは!!!?

 何て、我が儘、勝手で――

【信長】

「……………………」

 ――最低、なんだ!!!

【鞠】

「どうして、その結論を、1ヶ月半前に出せなかったんですか。彼に限らず、貴方がた3年は今年の夏が最後でしょう? 私が会長を務める紫上会には、私が信用ならないからというまさに今貴方がたが述べた不満そのものに応えて、最も信頼された3年生が副会長として特別就任した、更に貴方がたが崇拝する彼もまた紫上会に入っている。私は、ちょっかいを出さないのなら貴方がたに危害を加える予定など断じて作りません。貴方がたに不快な環境をわざわざ提供する意思もありません。貴方がたが何か活動に不備不満があるのなら、それを受け検討し回答と処置を与える義務を全うします。それをこの2ヶ月、私は……今年度の紫上会は実際にこなしている。それだけの能力があることは……他の団体はとっくに分かっていた!」

砂川焦り

【鞠】

副会長を信用せず、更には彼を信用せず、自分たちの夏を犠牲にしてでも私を潰す価値など、あるわけがない――!! そんなの他の団体は、とっくに、理解して、誓約書を提出したんですよ!! 野球部の歴史文化実績価値、それらを蔑ろにしたのは貴方がた自身だということを、理解なさい!!

【児玉】

「ッ……」

【野球部】

「「「――――」」」

 ……ダメだ、熱くなるな。余計なミスのもとだ、冷静に頭を回せ。

 この状況は……可成り、マズいのだから。

【笑星】

「ま……鞠会長が、キレてる……不満、溜まってたんだね……」

【菅原】

「……いや、それだけじゃないかも。現状、押されてるからね」

【笑星】

「え……?」

【四粹】

「野球部がどれだけ本気なのかを、マスメディアが捉えてしまっている今、それを無下にするリアクションは会長に対する、外部からの大きな反感を買いかねます。世論の程度によっては、会長が辞職に追いやられる展開も、無いとは限りません」

【六角】

「それって最早クーデターだな。その規模になると、流石の砂川会長も負けるか。だが野球部に応じるというのも、負けみたいなもの」

【笑星】

「そ……そんなヤバい状況なの……!? 鞠会長――」

 焦るな。

 負けるな。この理不尽に屈するな。

【信長】

「……………………」

 彼への虐げを、赦すな!!

【鞠】

「掲示でも、会見でも、何度も予告した筈です。誓約書の期間は……寧ろ、延長したぐらいです。それでも誓約しないという決断をした! 試合に出られない事実も会見で言及され認知された! 今年度の、紫上会と野球部の関係は4月の時点で確定しています! これが――」

 後々が怖い。だけど今は、何としても、跳ね返せ。

 正しいのは、勝者わたしなのだから。

 絶対負けるな。負ければ……負ければ!

 私も書記も、穢される!!

【???】

「――頼む!!

【鞠】

「ッ……?」

 だが――ここで、思わぬ野次が、飛ぶ。

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