5.14「唯一無二の」

あらすじ

「それが今年度の、最強が集まる紫上会だよ」信長くん、祝われます。祝われるってキーボードで打つの微妙に大変というか死にそうになった5話14節。

砂川を読む

vsnobunaga

【六角】

「そういや、ああいうことあったよなー俺たち」

【菅原】

「ああ、あったわねーああいうこと」

【四粹】

「ありましたね……」

 今は、六角先輩たちが前年度の思い出話に華を咲かせていた。

 俺が副会長だったころの話だ。

【深幸】

「どんなことあったんすか?」

【六角】

「いざ話をすると面倒なんだよなぁ。まあ要点だけ話すと、あれのせいで一回紫上学園財政破綻しかけたんよ」

【深幸】

何それ!? もっと要点ありますよね!? 詳しく!!

【六角】

「まあ別にいーじゃん何とかなったんだし」

【菅原】

「何とかしたのは村田だけどねぇ。めっっちゃくちゃ怒られてたね、六角」

【六角】

「年下の女の子に足蹴りされながら説教された良い思い出だよ」

【信長】

「断じて良い思い出ではないですよ……あの時は本当に生き心地がしなかった……」

 六角先輩は、飛び抜けて優秀な人だった。

 ただ、飛び抜けてるところ以外はとことんダメな人でもあった。それを放っておくと平気で大惨事を引き寄せる。

 最も会長となるのにしっくりとくる人だったと同時に、最も会長になっちゃいけない人でもあった。大切なのは、周りがどれだけサポートもとい監視をしておくかだった。

 ……六角先輩が着目したのは、大人に対する待遇だった。例年紫上会のマニフェストは概ね「学生にとって快適な学園を作る」だが、敢えて六角先輩は「教師」としたのだ。

 学生一人ひとりの願いではなく、学園という枠をこの人は常に見続けた。これまでと決定的に違う紫上学園というのを自分の代で目指したのだ。

【六角】

「はっはっは!! まあ、どうにかなったんだし、終わったことだよ。バレなきゃノーマンタイ」

【男子】

「純粋な一般学生の俺たち知っちゃったんだけど……」

【信長】

「すまん、忘れてくれ」

 結果、学生の生活水準は上がったわけじゃない。だが……学園の雰囲気は更に良くなったと思う。学生と大人の間が狭くなったような。良い意味での垣根破壊を六角政権は多角的に成功させたのだった。

 色々手は尽くしたし、玖珂先輩が非常に優秀だったのもある。けど、やっぱり一番の勝因は……この六角碧叉という人間の存在そのものだろう。会長というのは、ただ存在するだけで、学園全体の空気をよくしてくれるんだと思う。六角先輩は、その最強の例だったのだ。

 では……今の、会長は、どうなのだろう。

【六角】

「……砂川さんは、俺みたいな失敗はやらかさないんだろうなぁ」

 丁度、六角先輩は彼女の名前を口にした。

【男子】

「また砂川の話っすか……」

【六角】

「仕方無いとは思うがね。紫上学園の話をするには、紫上会……会長は切っても切り離せない。事実、今年度の紫上学園を思うにあたって彼女の存在を抜いて語れやしないさ」

【菅原】

「良い意味でも、悪い意味でもね」

【四粹】

「悪い意味……?」

【菅原】

「彼女は……紫上学園に対して、本当に興味が無いのが分かったから。私たちが不幸になろうが、幸せになろうが、彼女にはどうでもいいこと。だから仕事は安定する。私たちの声によって彼女の仕事の方針が変動することがないから」

【六角】

「いっつも不機嫌そうだよねぇ。ここはもっと楽しい学園なんだけどなぁ。其処ら辺は俺もよく分かんないよ」

【男子】

「は、はあ」

 ……少し、驚いた。

 この2人は可成り会長を評価していたから、てっきり純粋に気に入ってるのかと思っていたけど。否定的な評価もいくつか持っているらしい。

 確かに賛否両論を呼ぶ姿だとは思う。俺だって、不満を持っていたのだから。

【菅原】

「それで……野球部は、どう思ってるの砂川さんのこと」

【男子】

「え、いきなり俺らに訊くんすか……」

 菅原先輩は、阿部にそれを問うた。

 4月からずっと引き摺っている問題事を……。

【男子】

「「…………」」

 2人は互いを見遣って……少ししてから、答え始めた。

【男子】

「……野球部としては、正直、自分たちの待遇がアレなんで、断じて好印象とかじゃないっすよ」

【六角】

「だろうねー。チャンスぐらいやってもいいのにとは俺も思うかな」

【男子】

「でしょ! 見た目というか雰囲気通り堅くて、会話が成立しなくて、自分の考えを押し通して……」

 周りを見渡す。会長の姿は無い。

 さっきから見当たらない。此処は会長にとって喜ばしくない空間であるから、外で休憩しているのかもしれない。

 だからこそ好き放題に話題にできた。六角先輩たちにとっても。野球部にとっても。

【男子】

「……でも、そうなんだよな茅園、堊隹塚」

【深幸】

「ん……?」

【男子】

「お前らが云ってたように……アイツは、会長をやれてるんだよな」

【笑星】

「…………」

 ……だから、それも比較的容易に云えたんだろう。

【男子】

「今じゃ、明示的に反抗してるのって、野球部ぐらいになってるし。体育祭もあって、今じゃ砂川を否定することの方が、アウェイになってるっつーか……」

【笑星】

「やっぱり……分かっては、いたんだね」

【男子】

「そりゃな。他の部活は何の苦労もなく大会にエントリーしてるの見たら、流石によ……」

【男子】

「でも、キャプテンたちの気持ちも分かるんだよ。紫上学園は、俺たちの故郷なんだ。一番大事な場所なんだ。その場所を任せられる人は……俺たちが認める人であってほしいって思うのは、当たり前だろ? 六角先輩とか、松井とか」

【深幸】

「……だな」

 野球部は、諦めずに叫び続ける道を選んだ。自分たちの故郷を守るために。

 その気持ちに偽りなどあるわけがない……そんなの、俺だって勿論分かっていた。俺だって野球部だったんだ。

 だけど……やっぱり俺と彼らは、違っていた。俺が違っていた。俺は……勝負の為に野球部に居た。勝負の為に紫上学園で勉強してきた。

【信長】

「…………」

 野球部の選択は、正しいのか? 間違っているのか?

 その議論は絶えない。その一方で――

 「俺は?」

【信長】

「…………」

【六角】

「……俺は、ただ一人で突っ走ってたわけじゃないよ」

 六角先輩が、言葉を返していた。

【六角】

「四粹と菅原がいて、松井と村田がいて。こんなにクッソ頼れる連中が俺を監視してくれてたから、何とか良い感じに収まったってだけ。俺は確かに才能に溢れてるが――」

【菅原】

「自分で云わないの」

【六角】

「しかし結果を出せたのは、皆が居たからだよ。野球とおんなじ。そこ、見落とさないようにしてくれな」

【男子】

「六角、先輩……」

【深幸】

「つまり、だ」

 前会長の言葉に、深幸が続いた。

【深幸】

「現紫上会も、砂川会長1人じゃないってことだ」

【笑星】

「うおっと!」

 隣の笑星の頭を突然抱いて、

【深幸】

「ほら、ここに。皆の笑顔を望む笑星が居て!」

【笑星】

「……うん! それから!」

【四粹】

「……!」

 一層笑顔になった笑星が、深幸の手を離れて、玖珂先輩に向けるように手を広げて、

【笑星】

「ハチャメチャな六角先輩を補助してきた玖珂先輩が居て!!」

【深幸】

「アイツのやり方をよく思ってない俺も居て、そんでもって!!」

【信長】

っ!

 気が付いたら隣に来ていた深幸が、俺の肩を掴んで引き寄せた。

【深幸】

「何よりもお前らが最も信頼するこの松井信長が、紫上会に居るんだぜ」

【信長】

「み、深幸……」

【深幸】

「砂川がお前らを無視する分は……俺たちがその分をやれる。ぶっちゃけ不安しか無いが、それでもそれが今年度の、最強が集まる紫上会だよ」

【六角】

「濃いな」

【菅原】

「アンタが云えることじゃないでしょー」

【男子】

「……松井」

【男子】

「何かさ、ずっと思ってたんだけどさ」

【信長】

「どうした?」

【男子】

「茅園って、本当良い奴だよな」

【信長】

「……今更気付いたか。俺の唯一無二の、親友だぞ」

【深幸】

「……あんま恥ずいこと云うなや」

【信長】

「お返しだ」

 そう、俺はとんでもない親友を持っていた。

 だけどお前ですら、俺は理解されない。それはお前が悪いのでは断じてなく――

 ――俺が、やっぱり、おかしいのだ。

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