5.11「自分の起源」

あらすじ

「……最低な奴だよ、俺は」信長くん、河川敷を歩きます。草野球とか多分作者はやったことないですが、やっぱりやり始めると楽しいのかなってドキドキする5話11節。

砂川を読む

vsnobunaga

Stage

蛙盤区

 蛙盤の河川敷道を歩く。

 恐らく物心ついた頃からずっと歩いてきた道だ。あの頃からこの町々は最先端の世界だったが、10年で景観は結構変わった筈だ。最先端の都市は変わり続ける。変わり続けなければいけない場所、なんだろう。

 だけどその一区である蛙盤は、あの時から変わらない。このレールのない土砂の道があり、坂があり、雑草と川と蛙が広がる田舎的景観。

 アバンガエルは蛙盤のブランドであり、中央大陸の一象徴だった。だから、環境を急変させるようなことをしないのだろうか。

【信長】

「個人的に、変わってほしくない景色ではあるな」

 何か理由があるわけではないが、そう思った。

【男子】

「かっとばせーーー」

【男子】

「ていっ」

【男子】

「すとらーーいく! なにやってんだよーー!」

 天端の歩道を歩いていると、高水敷の草原ではしゃぐ子どもたちが眼に入る。

 これぞ、草野球、といった感じだ。

【信長】

「……懐かしいな」

 野球少年なら、草野球の一度や二度はやったことがあるだろう。とはいっても俺の場合はC等部の頃に放課後付き合わされた1度だけだったと思うが。

 俺からしたら草野球に魅力は無いのだから。

【信長】

「…………」

* * * * * *

【鞠】

「野球って、何が楽しいんですか」

* * * * * *

 会長に問われたことを思い出す。

 あれを問われた時、俺はドキッとした。もしかしたら会長もまた、深幸たちのように俺のことを分かってくれていないのかもしれない、と。

 別に例えそうでも俺のやるべきことは変わらないから、大して問題ではない。だが、正直心寂しさはあった。

 ……しかし、違った。

 会長にとってあの問いは単なる確認だったのだ。

【信長】

「俺は……野球が好きなわけじゃ、ない」

 勝負が好きなだけ。

 その手段として野球はあっただけ。

【男子】

「うっし、次こそぶちかましてやるからなー!!」

【信長】

「…………」

 どうせ家に帰っても退屈があるだけ……とでも思ったのか、俺は法面に腰を下ろして、少年たちの草野球を眺めていた。

 彼らぐらいの頃の自分を、思い出しながら。

【信長】

「……負けるのが嫌だったんだよな」

 勝負を知った切欠は、敗北だった。

 俺は何かで負けた。それが滅茶苦茶悔しかった。

 だから今度は勝った。すると、言葉で表せないくらい、身体で表しきれないほど、嬉しかった。

 負けるのは嫌だが、それ以上に勝つことが好きになった。

 俺に勝ちを与えてくれる、そんな勝負というものを俺は好きになった。

 で、明確にいつだったかは分からないけど、両親が俺にスポーツを勧めた。蛙盤の少年野球クラブに加入して俺は野球少年になった。そこで野球で勝つための団体練習が始まった。

 云うまでもなく野球というのは団体スポーツだ。個人が頑張れば勝てるってわけじゃない。皆で頑張らなければ勝つのは難しい。個人競技よりも、見るべきものは多い。心配すべきことは多い。

 だが、その苦労の分、勝った時の感情は凄まじい。

 だから……俺は、野球の道を選んだんだ。

【男子】

「……ねー、にーちゃん?」

【信長】

「ん?」

 気付けば、男の子が俺の方を見上げていた。

 しまった、邪魔してしまったか。

【男子】

「にーちゃんも、野球やる?」

【信長】

「俺か? ……やめておくよ、何か大人げないから」

 退屈凌ぎに、周りを巻き込んではいけない。

 大人しく帰るとしよう。

 ……かきーーん。

【信長】

「……いい音鳴ったな。あんま飛ばしすぎると、ボール見つかんないぞー」

 純粋な音を背後に感じながら。

 俺は帰路につく。俺には俺の時間が待っている。

【信長】

「……最低な奴だよ、俺は」

 自分の欲望の為に、野球部に所属した。

 自分の一時の目的の為だけに、皆と夢を共有した。

 信頼関係は、あるようでない。

 そんな俺が野球部のエースだったなんて、世間の感覚からすればおかしい話だろう。野球の醍醐味として、不適切なのだろう。それくらいは俺も分かってるつもりだ。

 だが……気付けば俺は、そういう人間だったのだ。俺はこういう人間でしかいられないのだ。

 それを分かってくれない彼らを、恨むことは身勝手の極みだ。しかし、不平不満を呟いていいなら……

【信長】

「どうして、俺なんかが大切にされちゃうかなぁ……」

【???】

「――決まってんだろ。実直なお前が強くて、輝いてたからだよ」

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