4.08「仕事」

あらすじ

「俺に会長は似合わねえよ」深幸くん、案外人気者。しかし理解されない、そんな4話7節は短めですみません。

砂川を読む

Day

5/8

Time

13:30

Stage

紫上学園 用務通り

【深幸】

「――これが、今回白虎ダンスチームの方向性だ」

 前日団長たちに伝えたことに加えて、候補となる楽曲を、皆に伝える。

 反応は……

【みんな】

「「「天才か」」」

 概ね良好って感じだ。よっしゃ。

【女子】

「だけど、ちょっと衣装が大変そうね……」

【深幸】

「そうなんだよなぁ……用意するとなればメインとなるダンサーが本格的なものを。そうでもない奴は割とテキトウでもいいかなって思ってる」

【男子】

「敵の衣装はある意味すっごい楽だけどなー」

【深幸】

「まあ、人気アニメだからな。探せばコスプレ衣装は見つけられると思う。黒井坂とか」

【男子】

「あるだろうなー黒井坂なら……」

【深幸】

「まあ、その際最大の壁はマネーなんだが……其処ら辺はもう少し考えてみるよ。あと、肝心のダンスとか脚本とかは、俺が組み立てておく。そうだな……中間試験終わったらまた集まってくれ。そこでダンス映像とか一連の流れを配布できるよう用意しておくから」

【女子】

「ダンスって、中間試験終わりから覚えられるの?」

【深幸】

「俺の感覚で申し訳ないが、1日あれば充分だ」

 ……中間試験を控えて、練習に打ち込むなんて心境的に難しい。だからそのストレスは与えたくない。寧ろ、試験が終わってから、バネで弾むように一気に練習してもらいたい。

 それに競技はダンスだけじゃない。各々出るべき種目があり、その練習を通して白虎の得点力を少しでも上げていかなければならない。

 他の競技、中間試験に時間を割くことができ、少量の練習で抜群の効果を発揮できる今回の作戦こそ、俺が引き出しうる最適解。

 少し懸念する点はあるものの、満場一致で方向性が決まった。

【深幸】

「できれば対象のアニメとか見てくれるといいけど、俺も結構詳しい方だから、勿論質問してくれて構わないからなー」

 取りあえず、これで解散となった。

 ……………………。

 その、教室に戻る道中。

【男子】

「茅園って、会長とか向いてたよな」

 仲間から、そんな言葉を貰った。

 ……またか。

【深幸】

「云っとくけど、クーデターとか無しだからな」

【男子】

「分かってるよ……もう無理だって皆理解してっから……」

【男子】

「だけど、惜しいよなぁ。松井に、茅園……会長に相応しい奴が2人もいんのに」

【深幸】

「俺に会長は似合わねえよ、信長一択だ。いや……現実は芋女だが」

【女子】

「ううん、似合うよ茅園ならー! 会長が無理なら、来年は団長やってよー」

【女子】

「リーダーシップ、ていうかさ。オーラあるよねー」

【深幸】

「……………………」

 皆、俺のことを評価してくれてるんだろう。それは素直に嬉しいし、信頼されている……俺は初期の笑星と違って、紫上会として認識されている……そう受け取るべき、なんだけど。

【深幸】

「……やっぱ、パスかなぁ。荷が重い」

 悪いな、皆。でも皆の為でもあるんだよ。

【女子】

「案外ヘタレ?」

【深幸】

「うっせ。無理なもんは無理。ったく、どいつもこいつも……」

 ――俺には、煌めきが欠如している。

 それは決定的に、ダメなんだよ。

 それよりも、俺はやっぱり――さ……。

【菅原】

「お悩みかな、後輩?」

【深幸】

「……ッ?」

 ちょっとボーッとしてたかもしれない。いつの間にやら、皆とは別れて廊下を殆ど宛てなく歩いていた俺に、話しかけてきたのはここ最近顔を合わせまくってる前年度のレジェンドの一人。

【深幸】

「え……菅原先輩?」

【菅原】

「この時期は団長と呼びたまえ白虎の副団長。そんな顔をしていては、君に信頼を寄せ後ろを歩く者たちが不安になるよ。六角ほどを期待しないが、紫上会で大事なことはまず顔を作ることだ」

【深幸】

「す、すんません」

 一言でいえば、油断した、って感じだ。

 云われずとも俺は空気は読むタイプ。自分の立場が全体の士気に影響を与えやすいことぐらい分かってるし、だから先頭としての不安感などは顔に出しちゃいけないと行動していたつもりだった。

 ……その隙間を昼休みについてくるんだもんなこの人は。相変わらず、茶目の入った性格だ。

【菅原】

「……茅園、ちょっと時間ある?」

【深幸】

「はい? 何か打ち合わせっすか? まあ昼休みですし、予定してた密会は終わらせたんで大丈夫ですけど」

【菅原】

「知ってるよ。廊下で盗み聞きしてたし」

【深幸】

「他のチームに怪しまれまくるから普通に傍聴してくれよ……」

【菅原】

「なに、そんなに時間は取らせないよ。そこの空き教室で駄弁ろうじゃないか。君の、今を」

【深幸】

「……俺の、今?」

Stage

空き教室

【菅原】

「いやさ、昨日の密会で少し話題に上がってただろう? 随分強引に切られて終わってしまったけど。君の面白い悩みについて」

【深幸】

「ッ……」

[past]

【副団長】

「マジで一人でやっちゃってるんですね、あの人……噂には聞いてたけど……」

【副団長】

「それって、どうなんですか?」

【菅原】

「規則上、禁止されてはないね。まあそんな人が出てくるのを予想してなかったとも云うが。しかし、松井は可哀想になってくる。茅園はどう?」

【深幸】

「……実際、マジで俺紫上会で一つも仕事してないんで。これでいいのかなぁ、とは流石に」

【菅原】

「はっはっは、面白い悩みだね。やっぱり茅園は見た目に反して真面目な子だ」

 ……笑い事じゃないんすけど。

【菅原】

「しかし実際茅園は優秀だよ。先の作戦もそうだし、思考も速い。松井も非常に優秀だけど、少し優柔が足りないからね。多分……君の方が仕事はできる」

【深幸】

「ちょ――ま、まあ、とにかく! 皆さん賛成してくれたようだから、俺は今云った方向で進めてみますよ。明日にでも参加者と共有して反応を見ます」

【副団長】

「「お願いします!」」

[past]

 アレ、か……。今この人は、アレを蒸し返すつもりでいるのか。

【菅原】

「別に君に不都合なことは云ってないつもりなんだけどねぇ。同じ事を云うようで申し訳ないが、茅園は優秀これは間違いない。作戦の視点、思考力、周囲への気配り。総合的に見て、紫上会的経験さえ積めたなら近いうちに松井より君の方が仕事ができるようになるかなって」

【深幸】

「いや、それはホント――」

 ぶっちゃけ、この文脈は好きじゃない。

 もう慣れっこだけど、それでもその、特に不都合の無いはずの論理が俺は好きじゃないんだ。

 だって、それじゃあ意味が無いんだから――

【菅原】

「だがそれを云うなら六角と玖珂の関係も同様だったからね。優秀か否か、というのは結局のところ紫上会ではあまり問題にならない。何とでもなるもの」

【深幸】

「……?」

【菅原】

「といっても実力試験で3位以上にならなければいけないから、相当の努力を積むことにはなる。それだけ積めて結果を出す人間が、落ち零れだなんてことは滅多に無いかな。話を戻すと……茅園はもっと、主役になっていい」

【深幸】

「主役って……いやだからそれは――」

【菅原】

「云い方が変だったかな。もっと自分の好きなようにやっていいってことだ。君は主役の隣に居るのが本望なんだろう? 気が合うね、私もそうだったから」

【深幸】

「え――」

 ……気が、合う?

 菅原先輩が、俺と……?

【菅原】

「推測でしかないけど、茅園は松井が会長で、それを一番隣でサポートする書記として紫上会を目指した……が、現実には思ってもみない存在が会長になって、松井も仕事が全然こなくてキラキラする機会すら無くなってしまっている現在、この紫上会で自分はどうしたらいいか……」

【深幸】

「ッ……」

 ……ああ……やっぱ……相当に、この人鋭いんだな……俺自身そこまで明確に俺のこと分かってないんだけど……。

【菅原】

「その一方で、会長になった彼女は実際実力者。煌めきというのは自分の基準でしかなく、正しい方法で彼女は選ばれた。だからどんなに自分にとって会長らしくない人でも、会長と認めて補佐していかなければならない……これで悩んでるんでしょう?」

【深幸】

「――――」

 言葉を失うというか。心底を一瞬で貫かれたというか。これまで触れられることもなかった前提をも遂に掬い上げられたというか。

 ……多分、そういうことなんだろう。

【深幸】

「紫上会で……俺はどうしたらいいか……」

 1ヶ月ぐらい粘り着いていた悩み。苛つきの、正体。

 アイツを気に入らない……受け入れきれない理由の本質は、アイツというより俺にある。

 どうしても、アイツが会長だというのがくっつかない、俺の心に――

【菅原】

「……いいじゃない、それで」

【深幸】

「え?」

【菅原】

「本当に一緒に働きたい……そう思える時が来た時でいいじゃないってこと。無理に二者択一する必要は無いと思う」

 そんな俺に対し、机に座った先輩が、変わらず簡単に言葉を続けた。

 ……え。

 そんなこと、云うの? この元紫上会の人が?

【菅原】

「そこで何をやりたいか……それが結局一番大事なことだと思う。私も最初は六角に嫌気が差してた。ただ、アイツのやり方っていうのがだんだん分かってきてからは……案外楽しかったしね。紫上会も、楽しむところだと思うからさ。彼女が全部上手に仕事をやっている今は、ゆっくり彼女を見ていればいいんじゃない」

【深幸】

「アイツを……見る、ですか」

【菅原】

「すぐに認められなくて当たり前。彼女は私たちにとって、あまりに異質なんだから。だから……今見えているものが真実の全てとは限らない。これからなんだよ、だから焦らなくていい」

【深幸】

「……先輩……」

【菅原】

「それに、とても気難しい相手ではあるけど……それも含めて会長を知って、そして会長に合わせ,時に反発していくことが、周りの仕事でもある。仕事は、無いわけじゃないよ。事実として彼女は、独りで紫上会を構成しているわけではないのだから」

【深幸】

「――!!」

 菅原先輩――

 ……そうか……そんなアンタが云うんだったら、それも……

 それも、仕事に、なるのか。

【深幸】

「…………分かりました。どうなってくかは分かんないすけど……このモヤが無くなるかも分かんないけど今は、あの芋女を見張ってようと思います!」

【菅原】

「うんうん」

【深幸】

「……菅原せ、じゃねえや、団長。わざわざ俺なんか心配してくれて有難うございました。まさか、誰かからヒント貰えるとは思ってなかったんで」

【菅原】

「伊達に六角の隣は務めてなかったんでね。上に立つ者がまず何を一番重要視しなきゃいけないかぐらい心得てるさ。あ、これ会長殿に対する嫌味とかじゃないからね報告しないでね」

 ……好きに、やってやろう。

 昨日とはきっと別格の意思。前会計のお墨付きといっていい、勝者の我が儘をアイツにぶつけてやろう。

 この気に入らない現実、それを見る俺でもいい、それらに変化をもたらす一刀であることを今は信じて……。

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