4.21「長距離走」

あらすじ

「ここで多少は、名誉挽回します」砂川さん、いよいよ長距離走。3000m走とか見せられる側もたまったもんじゃないなぁと思う私は矢張りインドアな4話21節。

砂川を読む

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10:30

 ……気付けば1時間ぐらい経ってた。

 傷は全く癒えてないが、冷静に考え事し、考えた通りに身体を動かせるぐらいには何かが回復したようだった。

体育祭戦績2

 因みに準備体操の結果は見事、1位を白虎がもぎ取った。まあその救世主は間違いなくあのメガホン野郎なんだけど。騒がしかったのはメガホンだけでなく、この私を応援しに来ちゃってる人が居ることに対する他チーム学生の響めき――「砂川、友達いたの!?」「お姉ちゃん溺愛しすぎじゃね!?」といった驚愕の新情報が順位を押し上げた。座っている選手もまた票要素に含められるという盲点をついた見事な勝利だったと団長は語った。

 取りあえず私はまた暫くあのメイドとは口を利かないことを固く誓った。

【鞠】

「さて――」

 私が軽い熱中症でダウンしているうちに、既に短距離走は終了し、地獄襷リレーも終盤に差し掛かっていた。

体育祭戦績3

 最高得点50点の短距離走は各チームから学年毎に2人、計12人が出場し、4人対戦で12回行う。序盤の大量得点競技筆頭であり、ここで好成績をおさめてスタートダッシュを決めたい――と団長は云っていたような気がするけど、結果はしょっぱかった。

 各レースどんな成績だったのか私は全然憶えてないけど、結論を云えば合計140点で、チーム最低得点となってしまった。朱雀は400点以上取ってるし。

 その後のヤバすぎる種目筆頭の地獄襷リレーは、最高得点80点。40人出場で、10人1組の4回レースを行う。その結果は……今出たっぽい。ふむ……176点。

 今のところ一番恐れている玄武と得点差はさほどないが、朱雀が絶好調だ。

 そして……次の種目は――

【司会】

「続きまして、プログラムナンバー5、3000m走です!! 800m? 1500m? 甘い、紫上最強の体育祭の長距離走が、そんな普通な距離なわけがない!! ということで男女一斉に、3000m走っていただきます。最高得点は、150点です!!」

 私も出場する羽目になった、超重要種目。

 150点……先ほどの朱雀の400点超えに比べたら魅力を感じないかもしれないが、この種目の恐ろしい価値は、その得点配置の広さにある。

 まず、この競技は各クラスから2人出場する。37クラスだから合計74人同時バトル。単純計算で、1チーム18人ぐらいは出場していることになる。

 次にその問題の得点配置だが、1位は当然150点。つづいて2位~5位がその6割、6位~10位が4割、11位~15位が2割。出場人数を考えたら当然といえば当然だが、この競技では15人が得点できるということになる。得点配置は一般学生には公開されないもので、機密情報みたいなものだ。しかし、その機密情報を紫上会は必ず一度覗くことになる。だから……前年度紫上会の面子が団長をしている朱雀以外のチームは皆、この配置の広さを分かっているのだ。

 ところで、これの何が恐ろしいのか。1位の150点も魅力ではあるが、それよりもチームが注目するのは、2位~5位の6割、すなわち90点範囲である。これを仮に1チームで独占できたとしたら、360点もの大量得点となる。6位~10位であればMAX300点、これも凄い。

 つまり、チームの目標は上位の「独占」となる。逆に別チームに独占されてしまった場合、短距離走の時みたいに恐ろしい点差を赦してしまうことにもなり、しかもそれが結構起こりやすい。

 チャンスでもあり、ピンチにもなる。だから独占されるくらいならコッチが独占するし、それが無理ならせめて独占だけは阻止しなければならない。短距離走とは比べものにならないほど、長距離走のプロ達はプレッシャーを負うことになるのだった。

 ……そんな場所で失敗をしようものなら、ブーイング不可避。だから私も徹底してトレーニングしてきた、という理由もあったりする。

【司会】

「それでは、選手入場です!!」

 ……74人が、入場し走行する。

 ついでにトラックを1周して、観客に選手を目視させる。

【汐】

「鞠ぃいいいい!! 案の定、長距離なんですねーーー!! 頑張れーーー!!」

【宮坂】

「はっはっは、ゴツい運動部に囲まれた儚げな少女が居るわ! さあ、君はこの場をどう切り抜けるかな!!」

 ……あのメイド、強制退場されるかと思ったら、まさかの学園長の隣で涼しくデジカメ回してやがるんだけど。いや何でさ。もうヤダこの学園、常識が溶けてるこの学園。

【信長】

「……会長、その……無理はされずに」

 隣をジョギングしてる、同じく2D代表の書記が話しかけてくる。

【信長】

「さっきまで倒れてましたし……リタイアしても――」

【鞠】

「――白旗なんて赦されるわけがない」

 相変わらず平和な頭をしている書記の気遣いを地面にはたき落とすように、頭を振る。

 切り替える。

【鞠】

「莫迦に莫迦と云われる筋合いは、無いのですから」

【信長】

「か、会長――結構、ヤル気に満ち溢れてますね……」

【鞠】

「人の心配をしてる暇が貴方にあるんですか、今のところ貴方のイメージぶっちゃけ無能ですが」

【信長】

「…………」

 書記、前を向く。

【信長】

「では――ここで多少は、名誉挽回します」

 会話は終了。1周し、スタート地点に全員が着く。そこに――

【深幸】

「信長!! 芋女ぁ!!」

 チャラ男が紫上会席から、叫んでくる。これ以上私を無駄に目立たせるな。

【信長】

「……?」

【深幸】

「お前らで、ワンツー決めろォ!!!」

 要は応援の叫び。

 だがほとほと無駄どころか……逆効果じゃなかろうかソレは。

【選手】

「おいおい……アイツ、俺たちがあんな芋会長に負けると思ってんのかぁ?」

【選手】

「案外、莫迦にしてたりするんじゃね? 松井は兎も角、なぁ?」

【選手】

「んじゃ、ちょっくら1位取りにいってやるかぁ、悪いなぁ会長!」

【選手】

「いやいや1位は俺だから」

【選手】

「いや俺だし」

 ほら、周りが私の存在を意識して火を点けたじゃん。

【鞠】

「あんの……」

【信長】

「深幸――? 一体、どういう――」

【司会】

「それでは、スタート致します!!」

 外野の声をできるだけシャットアウトするように、自分の足を見詰める。

 ……勝者を弄くり回すのも――

【秭按】

「位置について……よーい――」

 いい加減にしろ!!!

【銃声】

「DON!!!」

【観客】

「「「おぉおおおおおお……!!!」」」

【司会】

「始まりました!! 3000m走、74人のソルジャーが気高く疾走します!!!」

 74人一斉と云うが、勿論横1列でよーいスタートとはならない。前列からB等部1年、後列になるにつれ上級生が並んだ状態で一斉スタート。つまり初っ端数秒はどう足掻いても若年者がトップを飾ることになる。

 まあ、数秒だけだが。

【司会】

「あっと、最後列のA等部3年が一気に最前列を突っ走ります!! 頑張ってください!!」

 過去資料を眺めると、毎年度この種目で上位を飾るのはA等部の2,3年。その順位はだいたい、500m時点で固まってくる。

 流石に運動部は手強い――と思っていたんだけど。

【鞠】

「……遅」

 本気を出せばめちゃ速いんだろうけど、長距離を考慮してか、私の全力疾走に比べたらだいぶ見劣りする。

 これを考えたら、私は本当に短距離走に出なくて良かったと思う。長距離確定で良かったと。

 結論――相性が良かったということだ。

【選手】

「「「ッ……!?」」」

【司会】

「な――」

【宮坂】

「……!!」

 さあ――勝手に、絶望でもしてろ。

vsnobunaga

【司会】

「す……砂川会長が、後列を次々と抜かしていきます!! 物凄い疾走です。多分、全力です!!」

【選手】

「な、何だと……!? まだ6分の1も走ってねえぞ!?」

【選手】

「何考えてんだアイツ!?」

【信長】

「…………!」

 ――迫り来る、覇気。

 脅威に勘付いた選手たちが思わず後ろを振り返り、そして驚愕する。それを軽く見遣る程度で、後方に今何が起きているのか分かる。

 まさか……運動でも、桁違いだというのか!!

【司会】

「白虎の松井くん、1位になりました!! そして、その後ろから……今……!!」

【信長】

「……来たか……!!」

【司会】

「砂川会長が遂に、松井くんに並びました!!」

 横に並ばれて……俺も、ようやく会長の姿を視界に収める。

 その走り方を見れば、一瞬で分かる。それは無謀な走りなどではない。真剣に準備されてきた、予定通りの走り。運動部を蹴散らし勝利する為の全力疾走!!

【鞠】

「…………」

 なるほど。どうやら深幸はソレを知っていたから、嫌でもしっかり全力で走って貰う為に、周りをわざと焚き付けたのか。

 俺か会長、どちらかが確実に1位を取り、2位も獲得することで240点を確実に得られるように――俺としても勿論、それは好ましい展開だ。

 …………。

* * * * * *

【鞠】

「人の心配をしてる暇が貴方にあるんですか、今のところ貴方のイメージは無能ですが」

* * * * * *

 ただな、深幸。

 もう少し言葉を付け足してほしかったよ。

【信長】

「1位は――俺だろ!!!」

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