4.16「分かる気がする」

あらすじ

「俺はその人の助けになりたいし、近くでその人を見ていたい。悪いか!」砂川さん、束の間の同棲。その中で深幸くんの心を知る4話16節。

砂川を読む

Day

5/21

Time

5:45

【鞠】

「…………」

 ショートスリーパーではあるけど、流石に4時間弱の睡眠では全ての疲労は消えていない気がする。

 でももっと疲労困憊な毎日で胃薬と精神安定剤常備の先輩に比べたら穏やかな生活だろうな。そう思ったらもっと頑張れる気がする。

 ってわけで今日も静かに張り切って、勝者の生活をする。まずは朝ご飯だ。

【鞠】

「今日は……どのパタンでいくか……」

 どう選択しても食材が余るように計画してきたから、まあ何でもいいんだけど。しかし余ると余るで後々面倒ではある。食べずに廃棄はあまり好きじゃないが、持ち帰ったらシェフに確実に捨てられてしまう。

 思うんだけど賞味期限とか切れててもいいと思わないだろうか? だって消費期限切れてないんだから。美味しい料理の基礎は美味しい素材なのは否定のしようがないけど、多少品質が下がってもそれを扱う者の手腕と調理技術、あと調理過程・調理目標でだいぶ補えるでしょ。6、7割ぐらいの品質は保てるでしょ。それなら全然セーフでしょ。何でうちのシェフの皆さんいっつも朝ご飯から100%を目指すの。

【鞠】

「……取りあえずキウイ使うか」

【深幸】

「朝飯か?」

 ……チャラ男も起床したようだ。文字通り起床。

 朝っぱらからコイツの寝起き顔か。

【鞠】

「……なんですか」

【深幸】

「いや……その、毛布。助かった」

 宿泊一発目は失敗したと感じてるんだろう。流石に勢いが無かった。

【鞠】

「基本的にどうでもいいことですが、貴方に風邪を引かれたりすると……何か、巡り巡って私に厄介が返ってきそうな予感もするので、気をつけてください」

【深幸】

「お、おう」

 さて、今度こそ朝食――

【鞠】

「待てよ」

 もう一回振り返る。

【鞠】

「朝食は」

【深幸】

「は? いや、何も用意してねえけど。食堂にでも行こうかと思ってるし」

【鞠】

「彼処確か、今年度から働き方改革とか何とかで開店9時40分ですけど」

【深幸】

「は!? マジか!? うわ、そういやそんなメール、来てたような……クッソ、朝飯抜きかよ……!」

 コイツ宿泊の注意点筆頭の食事の計画ガバガバなんだけど。賢いんじゃなかったの。

【鞠】

「……まあ、廃棄率を下げるには丁度良い、か……シャワーでも入ってくればいいんじゃないですか」

【深幸】

「……ん?」

Time

6:15

【深幸】

「……おう」

 リビングエリアにて、まことに不本意ながら2人で食卓を囲む。

 本日のブレークファーストのメニュー。

 

  • ・雑穀梅入りご飯(雑穀米でタンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維補充。梅干しで疲労回復と食欲増進)
  • ・私流エッグベネディクト(ポーチドエッグと納豆とベーコンで構成。タンパク質やアミノ酸補充)
  • ・味噌汁(わかめと豆腐とねぎとしじみ。しじみは必須)
  • ・野菜ジュース(主栄養分:ビタミンC、βカロテン、マグネシウム、カルシウム、カリウム)
  • ・キウイ入りヨーグルト(キウイは皮ごと。ビタミンC~E、食物繊維、カルシウム、カリウム補充)

【深幸】

「え……すっっっげえ、栄養オーラ、漂ってね……?」

【鞠】

「スタートダッシュして終日仕事をしていくには、朝食が重要です」

【深幸】

「で……俺も戴いちゃって、いいわけ?」

【鞠】

「私の都合も込みです。デメリットはありますか」

【深幸】

「いや……特には。じゃあ、有難く戴くわ」

 朝食、開始。

【深幸】

「お前って……料理できたんだな。軽くビックリだわ。てか俺のお袋より豪華だし美味いし」

【鞠】

「別に、料理ができるわけではないです。特定の料理の作り方だけ覚えている。それで充分です」

 その他はシェフが作るし。その場合でない時に何とかなる簡単な料理さえ作れるなら問題無し。

 兎も角、私は栄養補充を重視する。真理学園では何かと帰れない機会が少なくなかったし、今も連日宿泊している状態。すると私は私の手で栄養価を補充しなければ、仕事をこなしていく為のエネルギーが不足しどんどん効率が下がっていくのは目に見える。

 昼食はこんな贅沢な時間を消費できる余裕がないので、どうしても粗末になりがち。そして放課後の激務と過剰運動。尚更、この朝食には意義がある。

【深幸】

「何だコレ……温泉卵か? 絶妙な半熟具合なんだが」

【鞠】

「というよりはポーチドエッグです」

【深幸】

「俺知らねえなソレ……ん、案外納豆と合うな。てか朝納豆とか初めてだわ俺」

 よく喋るなコイツ。感激するのは自由だけど黙って食べればいいものを。

【深幸】

「お前、いっつもこんな朝飯作ってんのか?」

【鞠】

「無駄に疲れない限りで」

【深幸】

「性格と人間関係を何とかしたら、普通にお前結婚できるんじゃねえか……?」

 喧しいわ。

Time

7:00

Stage

紫上学園 外

 ……いつも通り、ジャージに着替え外に出る。朝の空気を吸う。

 ……野球部の声を聞く。

【鞠】

「無駄なことを」

 どんなに頑張ったって、公式試合には出れないというのに。

 まあ、奴らがどんな朝を、放課後を過ごすのかは奴らの勝手。それ以上、私は口出しするつもりはない。

 ――それで。

【鞠】

「どうして貴方まで、ジャージ姿で外に出てるんですか」

【深幸】

「俺の勝手だろー」

 チャラ男が附いてきた。

【深幸】

「何だかんだで世話になっちまってるし、何か礼ぐらいはしないとな。今から走るんだろ? 折角だし俺が評価してやろうと思ってな」

 何様なんだろう。

【深幸】

「俺、体力には自信あるんだぜ? 去年の体育祭でも長距離走やって得点圏入ったし」

【鞠】

「……ほう」

 しかしまぁ、後ろから附いてくるだけなら別に害があるわけじゃないし、確かに現状を何かで比較したいとは少し思っていたところだ。

 丁度良い、としておくか。

【深幸】

「コースは」

【鞠】

「霧草区を軽くマラソンします。遅くとも8時には帰ってきます」

【深幸】

「オーケー」

 いつも通りのジョギング、開始。

     

Time

8:00

 で、帰ってきた。

 後ろ、振り返る。

【深幸】

「ぜぇぇぇぇ……ぜぇぇぇぇ……」

【鞠】

「………………」

 チャラ男、満身創痍。

 最高にカッコ悪かった。

【深幸】

「っ……附いて、けたのが……ぜぇ……奇跡……ぜぇ――」

【鞠】

「貴方体力に自信あるんじゃ」

【深幸】

「お前……ぜぇ……体力、莫迦おかしい……ぜぇ……」

 しかし……こんな時でも莫迦にすることを忘れない筋金入りのムカつくチャラ男は、予想していた通り運動能力が高い。それもあるから副団長指名を受けているのだろうし。

 そんなコイツをここまで叩きのめせるのなら、可成り本番期待できそうだ。

【鞠】

「私とて非常に疲れてますが」

【深幸】

「……そう見えないんだが……」

【鞠】

「この程度の疲労度に慣れる為に毎日走ってるんですし」

【深幸】

「それで、全力疾走なのかよ……一日何キロ走ってんだ……?」

【鞠】

「まあ10キロは最低ノルマですね。それくらいしなきゃ、いきなり運動部相手に勝つのは難しいかなと」

【深幸】

「……化け物……」

 遂に化け物と云ったかこのチャラ男。

【深幸】

「真理学園って、お前みたいな化け物ばっかなのかよ……」

【鞠】

「私なんかよりよっぽどな化け物が居るには居ますが、そんなの何処の学園でも同じでしょう。貴方にとっての、あの書記のように」

【深幸】

「…………」

【鞠】

「悪評集めるだけの理由はありますが……あそこだって、ただの学園ですよ」

 もういい時間だし、制服に着替えて授業の準備をしよう。

 取りあえず7号館に入る。最近1Fにもエレベーターが繋がっていて地上から直接紫上会室に行けることをしっかり確認した。慣れれば当然こっちの方が早い。

【深幸】

「……悪かったな」

 と……後ろから附いてくるチャラ男が、何か謝ってきた。

【鞠】

「……は?」

【深幸】

「いや、何か。お前って真理学園のこと、俺らが思ってるよりも好きな場所だったのかなって。だったら、悪い云い方したなって」

【鞠】

「…………」

 さっきの質問か。

【深幸】

「ぶっちゃけ云って、俺の人生の中心にはいつも信長が居たからさ。それと同じなのかって考えたら……そりゃ怒るよな。そういうこと、だろ?」

【鞠】

「……貴方がどんな心変わりをして私の吐き気を催したところで、私がやるべきことは何も変わりません。私の態度は変わらない。なら、貴方が嫌う私は変わらない。それより……」

【深幸】

「――?」

【鞠】

「その調子じゃ、体育祭で恥ずかしい思いをするのは寧ろ貴方じゃないですか?」

 エレベーター、到着。2人で乗り、室内最上階を目指す。

【深幸】

「ッ――い、云いやがったな、テメエ……」

【鞠】

「貴方のキラキラ基準はよく分かりませんが、ダサい奴は流石に煌めかないでしょう? 精々、ダンスでドジを踏まないよう祈るといいです」

【深幸】

「うっせ! お前なんかに煌めきをコメントできるかよ! お前なんかより、信長と菅原先輩の方が煌めいてる、凄いんだからな!!」

 何その切り返し方。突然の凄く壮大な小物臭。

【鞠】

「貴方自身が勝負しなければ貴方は煌めかないものでは」

【深幸】

「俺は元からそんなものねえからいいんだよ」

【鞠】

「……は?」

【深幸】

「だけど、信長たちは違う。俺とは違って……ヒーローになれる、違う住人だからな。だけどそんな凄え人たちが、凡人でしかない俺の力を必要としてくれる。近くに居ろと云ってくれる。なら、俺はその人の助けになりたいし、近くでその人を見ていたい。悪いか!」

 エレベーターが紫上会室に到着。

Stage

紫上会室

 認証を済ませ、部屋に入る。

 が……当然、話題は切れていない。というか私が思いっ切り引き寄せられていた。

【鞠】

「……なるほど……書記が何か過小評価してるとか云ってましたが、確かに筋金入りのようで」

【深幸】

「は? 信長が何か云ってたのかよ……?」

【鞠】

「貴方が会長でも良かったとか云ってましたけど」

【深幸】

「何云ってんだアイツ……」

 いやお前が何云ってんだっていうのがあの場の紫上会の感想だったけど。

 しかし……何と云うか。

【鞠】

「素直に意外としか」

【深幸】

「何でどいつもこいつも、俺を推すんだっつーの。ちゃんと光を見ろっての」

 純粋な疑問。何一つ嘘のない、コイツの心情なのだろう。

 ……ムカつく。

【鞠】

「何か見てて憐れですね」

【深幸】

「うっせ」

【鞠】

「ただ――」

分かる気がする

【鞠】

「――主役を隣で見ていたい……というのは、少し分かるような気がします」

【深幸】

「――え」

【鞠】

「私は会議エリアで制服に着替えますので、厄介な展開を起こさないように」

 少し、敵と喋り過ぎただろうか。

 はぁ……人附き合い、苦手。早く先輩に全部擦り付けたい。

     

【深幸】

「――――」

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