4.12「どうしてそこまで」

あらすじ

「どうしてそこまで、やるんだ……?」砂川さん、チャラ男と対峙。「最悪」と思われる組み合わせの2人の価値観が真夜中の学園にて静かにぶつかり合う4話12節。

砂川を読む

vsmari

 はー……流石にめっちゃ運動した後のシャワーは格別だ。

 あんまこんなくだらないことに病みつきになりたくはないけど、実際休息の取れない中、如何に普段やっていること、欠かさないことからリフレッシュを見出すかが大事になってこよう。

 今のところ、このほぼ全裸歩きは紫上会室に宿泊するときだけ体験できるイカレた解放感。一日の強力なリフレッシュ候補となりそうで、正直怖い。こんなの癖にしたくない。ていうか単にまたパジャマを脱衣場に持っていき忘れただけなんだけどさ。

 まあどうせ誰も居ないだろうから大丈――

【深幸】

「――――」

【鞠】

「――――」

 ――夫じゃなかったっぽい、誰も居なくても取りあえずバスタオル持ってきた私の真面目で理性的な判断、マジナイス。

 ……ていうか――

【鞠】

「はぁああああ??」

 何で、コイツ、居るの?

 何で私が服を忘れた時に限って他の奴来るの??

 自意識過剰にはなりたくないけど、何かもう狙ってんじゃないかって思いたくなる。いや、無いけどさそんなの。

【深幸】

「な、なななな何して!? 何してんだよお前!?」

【鞠】

「……シャワー浴びてただけですけど……」

 チャラ男、露骨に慌てて背中を見せた。

 なるほど……一応私を女子とは認識していたみたいだ。まあどう思われようとどうでもいいんだけど、正直この状況は普通にショック。なのに人の裸……いや、半裸か、兎に角肌を見たソッチがリアクションとかダメージとか無いようだったら流石に怒り狂ってたかもしれない。

 はぁー……折角リラックスしてたのに、一気に疲れが……まだ仕事残ってんのに……。

【深幸】

「それは……その、すまん……ん――シャワー、浴びて……ってことはお前、泊まりか……? 中間試験前日に泊まりって聞いたことねえんだけど!?」

【鞠】

「抑も日常的に泊まれる学園とか聞いたことないですし」

 学寮とかを除けば、の話だけど。

 ……ていうか何普通に会話してんの私。服着よ私。

【鞠】

「……今から服着るんで、そのまままだ、こっち向かないでください」

【深幸】

「ッ……わ、分かった……」

 これを教訓にして、しっかり私、服を持って行こう。どんな時でも忘れないように。

 ……………………。

 さて……

【鞠】

「もういいですよ」

【深幸】

「あ、ああ……じゃあ……ッ――」

 ……何か、変な視線を感じる。別にたいして模様のあるわけでもない、普通の寝間着だろう。

 さては……コイツ、遊んでるように見えて、結構ウブだったりするのだろうか?

 ……いやいやいや、無い無い。だってチャラ男だもん。皆に受け入れられてるチャラ男だもん。世間的にも顔は良いんだからさぞモテている。女遊びにも多少は詳しいに決まってる。

【鞠】

「で……何なんですか、こんな夜中に。わざわざ来たということは、何か用事があったんでしょう」

【深幸】

「ッ……ああ……そうだよ。その――お前が、居るかもとか、思ってよ」

【鞠】

「………………は?」

 ダンス関係か忘れ物でもしたか、とかその辺を予想してたのに、まさかの私じゃん。

 いや、私? 何で?

【鞠】

「嫌がらせ……」

【深幸】

「ち、違えよ! んなくだらねえことの為に、補導がちらつき始める時間に来ねえよ……俺はちゃんとした――とは云いきれねえ、正直整理もついてないまま衝動に任せた結果だけど、巫山戯じゃなくて此処に居る」

【鞠】

「……回りくどい。何か私に訊きたいことがあるならさっさと云って、さっさと帰ればいいです」

 スルーしようかな……と思ったけど、この時間、この場所に逃げ場はない。そして、何となくコイツは、私を逃がすつもりがない気がした。

 なら……やむなし。付き合ってやる他ない。

【深幸】

「……お前、此処、何泊してる?」

【鞠】

「……………………」

 めっちゃプライベートかつ微妙なところ質問してきた。マジもうワケ分かんない。

【鞠】

「……覚えてません。これ、真剣な回答です」

【深幸】

「……そうか、真剣なんだな……つまり、いつだったか忘れるぐらいには、もう連続して泊まってるってことだな……!」

【鞠】

「まあ、そう認識してもらっていいですけど」

【深幸】

「何でだ……? お前、一体此処で何やってんだ? ずっと家に帰らずに、お前は……」

 ……寝床が此処になっているだけで、家に帰ってないわけじゃない……なんていうのは些細な話なんだろう。

 チャラ男は、何かを知りたがっている。今の質問は……まだ、その本質を問うものではないんだろう。あー面倒臭い……けどここは、素直に答えてやった方が苦労は少ない。

 だから、答えてやる。

【鞠】

「全部、やる為ですが」

【深幸】

「……全部――?」

【鞠】

「まず、最優先でやらなければならないのは4月分も含めた紫上会の仕事。それから、私個人の事情でしょうが、重要に違いないもので体育祭の準備、それから中間試験準備。それら全部をこなしていくには、夜の時間を有効活用できる此処で真夜中を過ごすのが一番効率的です」

 単純に、時間に合わせて活動できる場所を組み合わせたってことだ。

【鞠】

「分かり易い順番でいくと、中間試験対策。これは既に持っている自分の学力に加えて、定期試験ならではの授業範囲というというフォーカスポイントを押さえておく目的で授業に出席することが大事になると思われます。そして放課後は、出張など明るいうちにしておきたい紫上会仕事を、タイミングをみて切り上げて私なりに用意した体育祭の為のトレーニング。外を出歩けない時間帯になってきたら、此処に戻ってきて資料作成など夜中でもできる紫上会仕事。時間をみて睡眠し……早朝、走り込みなどトレーニングで一日を始めます」

 云うだけだと何か大したことないというかつまんないスケジュールだが、これ、結構キツいから。

 特に自分で用意しといてなんだが、トレーニングがヤバい。先輩から教えてもらった短期メニュー、嘔吐する恐れガン無視してる、辛い。

 ……まあその分、だいぶ自信はついてきたけど――って。

【深幸】

「――――」

 コイツ全然相槌とかないけど聞いてんのかな。

【深幸】

「どうして……そこまで――」

 ん、いやちゃんと聞いてたみたいだ。だが次の質問が来た。

【深幸】

「どうしてそこまで、やるんだ……?」

 多分……コレが本当に、コイツが訊きたかったもの、なんだろう。

【深幸】

「お前にとって不本意でしかない紫上会を、お前にとって大して興味のない体育祭を、どうしてそこまで頑張ろうって思えるんだ、お前……?」

【鞠】

「……はぁ?」

 正直莫迦じゃないか、とか思ったけど。だってこのチャラ男は盛大にまとめると「もっとしっかり学園に関われ」みたいなことを私に云い続けてきた奴なのだ。だけどチャラ男は今、私がそういうことを頑張ってると評価したようなものだ。

 なのに、今度は何でそんなことやってるの? って訊いてきてる。嫌がらせじゃないかやっぱり、と思ってしまっても仕方無かろうて。

 ……まあ、さっきも云ってたように、巫山戯で来ているわけではないから、コイツなりにその確認は真剣なものなんだろう。といっても……

【鞠】

「頑張るっていうか……やらなきゃいけないことですし」

【深幸】

「……どういうことだよ」

【鞠】

「やれなかったから紫上会の評価に繋がる――すなわち、私への誹謗中傷に、私が対抗できない形で、囲まれることになる」

【深幸】

「……分かんねえ、それは、そこまで重要なことかよ? ミスするくらい誰でもあるし、それで悪口を叩かれまくるような学園じゃ――」

【鞠】

「学園ですよ。きっと唯一、この私にとって」

【深幸】

「ッ……!」

 今でも忘れられない。忘れられるわけが、ない。

 何も悪いことをしていないのに。ただ転入してきただけなのに。

 これは、当たり前のことなのだ。

【鞠】

「――自分の大切なものを悉く莫迦にされて……繊細な人間が、耐えられるわけがない」

 本当のことなんて何も知らないくせに、平気でズカズカと踏み荒らし唾をとばす奴らなど、害悪でしかないのだから。敵に違いないのだから。

 そんな時――敵に怯えている暇は、ないんだから。

【鞠】

「誰にも――私の道は、邪魔させない。貴方にだって、絶対に」

【深幸】

「だから、誰の手も借りないのかよ? そんな……独りなら……本当に独りならッ、なおさら誰かを頼ろうとか思わねえのかよ!? 紫上会には、信長も、笑星も、玖珂先輩もいるじゃねえか! アイツらはお前を傷付けるような敵なのか!?」

 ……何の不満があるんだろう。この人に、その質問の何処にメリットが?

 いや……それも、私にとって無駄な疑問。ゴミの思考。故に、答えるだけ。

【鞠】

「味方と捉えると、面倒臭いことになるんですよ。だから、敵に位置づけます」

【深幸】

「――は――?」

【鞠】

「必要充分。私の道には、もう揃っている……だからそれ以上の過不足は、赦せません。それだけです」

 私の結論は、揺るぐわけがないのだから。

 それは……多少は、チャラ男にも感じられたのか。

【深幸】

「……お前は……勝者だが、信長とは全然違う人間だ……お前の執着が、俺には、分かんねえ……」

 探す姿勢が薄まっていた。興醒め、ということだろう。

【鞠】

「嫌いな人間を分かろうとする必要が何処にあるんですか。補導される前にすぐ帰宅することを勧めます」

【深幸】

「……ああ」

 急に力を無くしたチャラ男が、私に背を向け……ゆっくり、歩き出す。

 ……けど、数歩後。立ち止まった。

【深幸】

「……俺の所為か?」

【鞠】

「は?」

【深幸】

「いや……村田ほどじゃないとは思うが、俺も結構、お前のこと……莫迦にしてたから、さ。それが原因でお前は……全員敵、って思うようになったのかって」

【鞠】

「……紫上学園は私には要らないもの、故に害悪てき。それだけです。ウザったいこと考えてる暇があるならさっさと帰ってください。仕事の邪魔です」

【深幸】

「……ほんと、分かんねえわ……」

 分からなくて当然だろう。私も、そう思う。

 助け合いの精神を掲げる社会において、私はおかしい人間だろうと。

【鞠】

「…………」

 だけど、無闇矢鱈に知り合いを作り、仲良くなるのは、間違っていると矢張り私は考える。そういう人間に、仕上がってしまったのだ。

 充分に揃っているなら、それ以上は不要なのだ。それ以上あれば……リスクを負うことになる。

 私は、それがどうしても、耐えられない。

【鞠】

「独りでいい」

 それならこの学園では、独りでいい。

 私のことを、想ってなんてくれなくていい。

【鞠】

「――仕事しよ」

 2時まで、まだ全然時間がある。

 授業も出張もない明日、明後日も使って……何とか明後日までに7割、終わらせたい。それから……

【鞠】

「白虎チームの公園使用可能時間と場所、そろそろ来週分を考えるか……」

 仕事増やしやがって、チャラ男め。

 やっぱ、ほんと、アイツ嫌い。

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