4.11「刹那の眼」

あらすじ

「何だよ――今の、眼……」深幸くん、見てしまいます。体育祭準備編はあと6節ぐらい続きますが、割と大事な気がするので見逃してほしくない4話11節。

砂川を読む

Day

5/15

Time

15:30

Stage

紫上会室

 ――中間試験、前日。

 この日は紫上会の面子も、というか学生全員、直帰だ。そんな命令があるわけでもないが、そうしなきゃという強い空気がある。多少ピリピリしてるところはあるな。

 ……ただ、俺は今日張り切って勉強するものでもないと考えている。だって中間試験だぜ? 成績には響くものであるけど、実力試験に比べたらステータス影響は大したことじゃない。それよりも、日頃の理解度を測る為にこの試験はあるのだから、付け焼き刃は要らない。

 だから、いつも通りの放課後を過ごし、いつも通りの程度で勉強する。それが俺のベストだと思う。

 ということで……紫上会室に来ていた。

【深幸】

「…………」

【鞠】

「…………」

 マジか。

 今日も仕事やってんのか。コイツもいつも通り主義か。

【深幸】

「中間試験前日なのに、何してんだよ」

【鞠】

「見て分からないんですか」

【深幸】

「分かる。いつも通りの姿だし。だけどいつも通りでいいのかって話だっつーの」

【鞠】

「それは貴方にも云えることでは」

【深幸】

「俺はいいんだよ、別に中間試験に多くは求めてねえ。それよりか、俺は色々やりたいことがあるんだよ」

【鞠】

「なら私もソレで」

 ……一応会話は成立してるが、会話する気がないってのは絶えないデスクワークの姿でよく分かる。

 コイツと話してても時間の無駄。

 俺は俺のしたいことをやる……具体的には、いつも通り、ダンス練習だ。

 よりにもよって、俺はダンスリーダーなんだからな。

【深幸】

「そういや……」

 リビングエリアの反対側には……そう、ステージがある。ステージエリアでいいのかな、取りあえずそう名付けておくが。

 恐らく、前に立って喋ることが多い紫上会の為に、どこかの年度の先輩たちが作ったステージなんだろう。これで模擬的に練習できると。

 ……今の俺にとっても、好都合な段差だね。

【深幸】

「うし、んじゃいっちょ……」

 ……。

 …………。

 ……………………。

Time

20:00

【深幸】

「ふぅ――ん、もうこんな時間か……」

 ちょっと本格的にやり過ぎたか……2人も心配してるかもだし、そろそろ帰ろう。

 ……俺ほどテスト期間に運動能力鈍ってない奴もそう居ないだろう。ダンスだけじゃなく、参加する全ての競技で、俺は体力の面で他の奴らより有利に運べるかもしれない。

 副団長なんだ。信長を、菅原先輩をサポートできるよう頑張らなきゃな。

【深幸】

「……アイツは」

 仕事エリアを見てみた。芋女の姿はない。先に帰ったんだろう。

 俺も帰る。エレベーターのとこまで行き、スイッチを押す。

【深幸】

「……夜になると、急に静かなのが、気になり出すよな」

 元々此処は広さの割に人口密度が異様にひっくいから、音が響く。静寂も主張する。

 そういうのを怖がるタイプではない、が……芋女はどうかな。

【深幸】

「アイツ見た目は怖がりっぽいけど、どうせ怖くもなんともねーんだろうな」

 なんて極めてどうでもいいことを考えているうちに、エレベーターが来た。

Time

20:30

Stage

蛙盤区

【深幸】

「……やべ、お袋から着信入ってるじゃん」

 帰路を歩く。人波のある都市区ではなかなかボーッとてきないが、蛙盤の河川敷を歩いているこの時間はどうしようもなく退屈だった。

 歩きながら何かやるのは事故のもとだからあんまりやらないが、何となくアルスを開いてみたところ、着信2件スルーしてた。いや、マナーモードしてるし気付かねえって。

 通話。

     

【???】

「ハァ……ハァ……ッ――!!」

     

【母】

「― もしもし。深幸、まだ帰ってこない? ―」

【深幸】

「悪い、ちょっとやることあって遅れた。今帰ってるところだけど、何か寄ってほしいところかある?」

     

【???】

「……ハッ……ハッ……――!」

     

【母】

「― 中間試験前日の夜中にお遣いなんかさせるわけないでしょー。ゆっくり、帰っておいでー ―」

【深幸】

「はいよー」

     

【???】

「ッッッ――ッッ――!!」

     

 ……通話を切って。

【深幸】

「無駄に心配かけちまっ――」

 しっかり、真っ直ぐな、闇の道を前見て――

砂川走るb

【深幸】

「た……?」

 ――視界に、映る。

【鞠】

「ッ――!!」

 刹那の、景色。

 ソイツはすぐ、俺の横を、通り過ぎる。

【深幸】

「――は――?」

 有り得ない・・・・・モノを、散らしながら――

【深幸】

「ッ!?」

 すぐ、振り返る。後ろを見る。

 ……もう、アイツの姿は見えなかった。

【深幸】

「……今のって……芋女、だよな……?」

 ジョギング……だったのだろうか。いや、それにしてはあの感じ……全力ダッシュだ。

 凄え汗の量で、歯を食いしばっていて……速度を落とそうとは全然してなくて、何より――

【深幸】

「何だよ――今の、眼……」

 多分、見た。

* * * * * *

【深幸】

「アイツを……見る、ですか」

【菅原】

「すぐに認められなくて当たり前。彼女は私たちにとって、あまりに異質なんだから。だから……今見えているものが真実の全てとは限らない。これからなんだよ、だから焦らなくていい」

* * * * * *

 見て、しまった。

 アイツの――未知を……。

     

Time

21:15

Stage

深幸の家

【深幸】

「……ごちそうさま」

 家に帰ってきて、シャワー浴びて、テレビ見ながら晩ご飯食って……

 それ全部、正直、覚えてなかった。

【母】

「……深幸? 大丈夫、何か随分、ボーッとしてるけど」

【深幸】

「……………………」

* * * * * *

【鞠】

「ッ――!!」

* * * * * *

 ……………………。

 ああ、ダメだ。何もかも手付かず……っていうか。

 我慢、できねえ――

【深幸】

「――悪い、お袋。今から学園行ってくる」

【母】

「……え!? どういうこと!?」

【瑠奈】

「にーちゃん、もうよるだよー?」

【璃奈】

「にー、わるいこー?」

【深幸】

「ホント悪い、でも補導帯に入りそうなら一応学園に……紫上会室に泊まれるから、そのまま明日の中間試験受けるわ。帰ってこれそうなら帰ってくる」

【母】

「よく分かんないけど……分かったわ。何か気になってるみたいだし。でもどっちにしても連絡ちょうだいね」

【深幸】

「分かってる」

 走るように階段を上がり、自分の部屋へ。

 パジャマ用のTシャツを脱いで、予備の制服を引きずり出し……一応明日用のものを鞄に詰めて――

 階段を降りて、玄関へ。

【瑠奈】

「いってらっしゃい、にーちゃん」

【璃奈】

「かえってきてね、にー?」

【深幸】

「……おう」

 ……何、してんだろうな。俺。

     

Time

9:45

Stage

蛙盤区

 何考えてんだろうな、マジ意味分かんねえ。

     

Time

10:00

Stage

紫上学園 正門

 こんな走って……疲れ残したら流石に明日に響くってのに。

 ……だけど。

     

Time

10:15

Stage

紫上会室

 気になって、仕方無かった。

 気になったからといって、どうしてこんな時間に此処に来るんだ――?

 それは俺も分かんないけど。それでも動かずにはいられなくて、何かを確かめたくて。

 何かを観なきゃ、いけない気がして――

【深幸】

「……………………」

 俺は……殆ど全てが静寂に包まれたこの空間を歩き……廻り。

 そして――

PAGE TOP