4.10「おどろ」

あらすじ

「「「深幸にーちゃーーーん!!!」」」砂川さん、苦行に遭います。云うまでもない気もしますが、4話のメインはチャラ男です。

砂川を読む

Day

5/11

Time

10:15

Stage

霧草公共公園

【子ども】

「いけーー! いけーーー!!」

【子ども】

「おそいーーー!!」

【子ども】

「いてっ……ふえぇえーーん(泣)」

【鞠】

「………………」

 ……何をしてるんだ私は。

【鞠】

「早く……早く仕事を」

【信長】

「忙しいところすみませんが、コレも仕事ですので会長……」

【笑星】

「よっしゃ! いけーーー!! よし頑張ったーー!!」

 土曜日だろうと関係無く私は仕事がある。まあ授業が無い分沢山片付けるチャンスではあるけど。

 ただこの日は平日並みに時間が拘束されていた。というのも……

【子ども】

「まわれーーーまわれーーー!!」

【子ども】

「かっとーばせーーー!!」

【子ども】

「いったんもどれーーー!!」

 児育園の方で運動会が開催されているのだ。

 そしてそれに、紫上会は出席必須だったのだ。

 特に何かするわけでもないのだけど、運動競技と呼ぶには堅すぎる、子どものはしゃぐ姿をただ延々見ているだけのぶっちゃけ退屈な時間を強制されている。酷い。

【笑星】

「鞠会長も、そんな退屈で死にそうな顔してないで、応援しようよ! そしたらきっと楽しくなってくるって!」

【鞠】

「これ以上体力を消耗したくないので却下です」

【笑星】

「ぶー……」

【信長】

「では……副会長のように、挨拶回りでも?」

【鞠】

「何故自らそんなことをしなきゃいけないんです」

【信長】

「……ですよね」

 ……というか本当にあの副会長、紫上会をアピールしまくってる。観客への飲料配りを手伝ってるし。

 よくやるものだ、そんなことを。

【子ども】

「まけたーーーー(泣)」

 にしても彼方此方から嗚咽が聞こえる……親からすればいっそ微笑ましい光景に見えたりするかもしれないけど、私はただただ気まずい。

 涙に萌える人間はこの世に幾らでも居るけど、その気持ちが私には全く分からない。

 基本的に涙は、悲しいから流すものだろう。それを見て喜ぶとか外道じゃなかろうか。

 ってことで最高に生き地獄。児育園の運動会舐めてた。恐ろしい場所だ。私も母親になったら、これに溶け込まなきゃいけないのか……ていうか抑も私が母親になんぞなる日が来るのかという話か。

【鞠】

「……やめよ」

【笑星】

「???」

 変な方向に思考が潜っていきそうだったのを、頭を数回振って回避する。

 まったく、ただ見ているだけでいいなら紫上会来る意味無いでしょうに。この分だとC等部の運動会にも顔出さなきゃいけない、多分。

 ……他人が運動してる姿を見て、何が楽しいんだろう本当。

【鞠】

「……はぁ~~~~~……」

【笑星】

「凄いプロの溜息だぁ……ダメだよ鞠会長、子どもに移ったらどうするのー」

【信長】

「お……会長、午前の部、次でラストですよ」

 まだ午前の部じゃん。

 ……って、ん? 何か大人がグラウンドに集まって……組み立て始めた。何アレ。

【鞠】

「ステージ……?」

【信長】

「ダンス部による応援パフォーマンス、らしいです。深幸が出ますね」

【笑星】

「あ、だから茅園先輩居なかったんだ。てっきり会長差し置いてサボってるとばかり」

【信長】

「深幸は筋金入りの子ども好きだから、有り得ないな。というか、児育園の子どもたちは皆深幸のことを好いているし」

【鞠】

「……は?」

 何か拒絶反応が半分発動する情報入ってきたんだけど。

 と、私が「???」なことになってるとアナウンスが入る。

【大人】

「続いては、A等部ダンス部による、応援パフォーマンスです。皆、ステージに集まれー!!」

【子ども達】

「「「深幸にーちゃーーーん!!!」」」

【鞠】

「!?!?!!?」

 名指しされてるアイツ。

【深幸】

「うっす、今日も元気で何よりだお前らー!! 運動会は楽しいかー!」

【子ども達】

「「「はーーーい!!」」」

【深幸】

「じゃあ、不肖我らダンス部、少しばかり応援させてもらおう!! といっても、勿論盛り上がるなら……皆一緒、だよな!! 「げんこつやまのフライアウェイ」「蒼穹戦隊ブルーファイブ」「獄滅乱麻ブリキュアスターズ」、お前ら覚えてるなーー!! いくぞーー!!」

 凄えラインナップだった。そして皆同調率凄い。多分、何度か遊びに行ってるんだろう。

 あとチャラ男、衣装がヤバい。恐らくいずれかのキッズアニメのコスプレだ。全力過ぎて私が吐きそう。いや吐かないけど。

【鞠】

「私は……一体何を観てるんだ……」

【笑星】

「よっしゃ、俺たちも踊りにいこー松井先輩!!」

【信長】

「え、俺もか!?」

 ……奴ら、あの集合体に向かっていった。

 しめた……トイレでも行こう、この時間を何とか回避して――

 くいくいっ。

【鞠】

「……?」

【璃奈】

「……(くいくいっ)」

【鞠】

「――!?」

 ――させない、だと!?

【鞠】

「え……えっと……?」

【璃奈】

「おねえちゃん、にーの、ともだちですか?」

【鞠】

「はい……?」

 な……何だこの子は? 格好から察するにこの児育園の園児だろうけど。何でこの子はあの中央じゃなくて、私に寄っている?

【璃奈】

「ねーねー?」

【鞠】

「えっと……にー、というのは誰、ですか?」

 この年齢の子どもとの接し方とか全然分からない。どうしよう。

【璃奈】

「にーはね、あれー!」

【鞠】

「あれ……?」

 指差された方向には……

【深幸】

「げーんこーつやーまの、フライアウェエエエエエエエイ――!!!」

 同年齢として見るに堪えない、最高に盛り上がってるチャラ男が――チャラ男のことか!?

 ああ……よく顔を出してくる「にーちゃん」的な意味か……。本当に人気になっているようだ。

【璃奈】

「あっ、ダンスはじまったー!! フライアウェー♪」

 あっ、横で踊り出した。自由である。

 まあ、ぶっちゃけどう答えたら正解なのか分からなかったので助かったが。

【笑星】

「おやー? 周りのお父さんお母さんは盛り上がってくれてないよー、茅園先輩ー!!」

【深幸】

「んお?」

【笑星】

「よっしゃ、任せてー!! ほらー、皆で踊ろー!! こう、こう、こう!! 上半身だけでも、結構楽しいよー!!」

 ……何やってんのあの雑務?

 って――

【深幸】

「皆で一緒に、踊りましょー!! 笑星、手伝え!! 皆、予定外だけど……数人散らばってよろしく!!」

【ダンス部】

「堊隹塚は本当、元気だよな!!」

【ダンス部】

「オッケー上等、俺入ってくるぜー!」

【ダンス部】

「私も! 茅園、上は任せたよー」

【深幸】

「どうも!! んじゃあ、次ぃ!! 「蒼穹戦隊ブルーファイブ」いくぜーー!!」

 ……子どもだけでなく、私たちトラックの周りで様子を見守っていた観客たちまでもが、簡単に踊り始める……。

 何てことをしてくれたんだ雑務。いや、まあ私は勿論そんな場の空気なんかで踊らな――

【璃奈】

「おどろー!!!」

【鞠】

「!?!?!?!?」

     

Time

12:15

【大人】

「ダンス部の皆さん、ありがとうございましたー!! 拍手ー♪ ……では、お昼休憩でーす♪ お父さんお母さん、お子様の回収をお願いしまーす」

【璃奈】

「えへへー、またねーおねーちゃん♪」

【鞠】

「…………」

【四粹】

「ふぅ……すみません、だいぶ席を空けて――ん?」

【信長】

「笑星……恐ろしい後輩だな――え?」

【笑星】

「あー楽しかったぁ~、あ、皆お疲れ――え?」

 私は真っ白だった。

 ほんと、何やってるんだ、私は。

【鞠】

「恨めしや……恨めしや……」

【笑星】

「何で鞠会長、呪い発信してんの……? ダメだよ、子どもたちに呪詛かけるとか大人げないよ」

 お前だよ。

【笑星】

「あとは茅園先輩だねー」

【信長】

「あ、深幸は確か家族とお昼を食べるとのことです会長。親が忙しいから、弟たちを見ないと、と」

【笑星】

「へぇー弟さんが居るんだ、結構歳離れてるね」

【四粹】

「それもあって、この年齢層の子どもたちとの接し方に慣れているのでしょうか。新鮮な一面を見れたように思いました」

【信長】

「本当、アイツのコミュニケーション能力は幅広くて畏れ入ります……」

 人のことコミュ障云ってくるだけのことはある、ということだろうか。

 基本的に私は私に接触してくる時の奴の態度しか印象にないので、さっき見せたコスプレ姿のチャラ男は何と云うか、もう別人だろって印象を受けた。拒絶反応の一種だろう。

【信長】

「……アイツは少なくとも、俺よりも会長らしい、とは思ってたんですけどね」

 ……何か書記が呟いた。

【笑星】

「え?」

【信長】

「あ――いや、違いますよ会長、別に会長への不満ではないんです。寧ろアイツの心配というか……」

【四粹】

「心配、ですか?」

【信長】

「ほら……アイツ、凄く俺のことを推してますよね? 会長は俺が相応しい、的な……」

* * * * * *

【信長】

「……いつものアレか……」

【深幸】

「そうだよ!! 煌めき!! トップの人間に必要なのは煌めきなの!! 自分たちの上に立つ人間には、キラキラしててほしいもんだろ!? なーのーにぃ――」

【笑星】

「砂川先輩、キラキラしてない?」

【深幸】

「してないッ!! 濃い茶色!! ドヨーンとしてる!! ビジュアルと放つ空気が見事に芋女!! 何でこんな奴が俺と信長の上なの!? 信長会長が良かったよマジで!!!」

* * * * * *

 確かに。アイツはことあるごとに私とこの書記を比較して私をダメ出ししてきていた。ウザい。

【信長】

「最初から、アイツそんな感じなんですよ……他人を優先しているというか。別に抑え込んでるような様子もないですけど……自分の能力を過小評価している」

【笑星】

「茅園先輩、普通に凄い人だよね?」

【信長】

「地頭の良さは確実にアイツの方が上だと思う。それと密接した、柔軟な対応力も……。だから、アイツは俺の会長姿を見てみたいと云ってたけど、俺だってアイツの会長姿を見てみたかった」

 やっぱり私への不満じゃないか。何だコイツ。あとすっごい仲良し、だから漫画部のネタにされるんだ。

【信長】

「今のパフォーマンスを見ていたら、より思う……俺なんかより、遙かにお前の方が「煌めき」を持っているじゃないか、と」

【鞠】

「…………」

 またソレか。聞きすぎてウザったくなってくるレベルだ。

 ……ただ。確かに、書記の云っていることは、私も引っ掛かるものはある。

 アイツの――軸が、よく分からない。

【鞠】

「(……どうでもいいけど)」

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