3.06「事件の背景」

あらすじ

「じゃあ、放送に関してですけど……まあ一言で云えばアプリを使いました」砂川さん、ギロチンのネタばらし。砂川さんは繊細な女の子な3話6節。

砂川を読む

Time

16:30

Stage

7号館 職員室

【秭按】

「――笑星!!

 ……奴らの処分をまとめるという突然の大仕事に泊まりを覚悟しつつ、紫上会室を目指す。当然のように副会長らが後ろに附いているが、まあ気にしても無駄だろう。

 ただ、紫上会室に行くには7号館を経由しなければいけないわけで……今のところ私は職員室を経由する方法しか知らないのでわざわざ周りの校舎から3Fの連絡通路を使い職員室にやって来たのだった。

 ……で、そこで呼び止められた。正確には私ではないけど。

【笑星】

「ぁ……姉ちゃん……」

【秭按】

「大丈夫だった――!? 怪我は!?」

【笑星】

「うん、大丈夫……ごめん、心配かけた……」

 ……職員室には音声データしか流していないけど、あの内容だけでも充分この雑務がどんな目に遭ったのか、想像できるだろう。

【鞠】

「(――ていうか)」

 担任そこ雑務そこ、姉弟だったの?

 そういえば確か、どっちも堊隹塚……

【深幸】

「……似てねえ……」

【信長】

「おいコラ、口に出すもんじゃない」

 腹立つけど同じ事を思ってた。

【秭按】

「……皆さん、私情ではあるけれど、お礼を云わせてください……笑星を、護ってくれて本当にありがとう」

【信長】

「先生……実質、笑星を救ったのは会長ひとりの手腕です。俺は何もしてない……何も、できなかった」

【深幸】

「……ま、俺も役に立てなかったわな。悔しいが事実だ」

【秭按】

「……そうなの……砂川さん、助かりました」

【笑星】

「お、俺も! 先輩ありがとう……先輩が、来てくれなかったら今頃俺……」

【鞠】

「……貴方を助ける為に、やったことではないです。厄介払いをしただけ」

 そういう意味では、奴らにとっても、そして私にとってもこの扱いやすい雑務は絶好の餌。

 私にとってこの後輩も色んな意味で敵であるのだから、彼をどう扱おうとも私の心は別に痛まないだろうけど。

【鞠】

「見当違いの感謝なんてしてる暇があるなら、反省でもしてればいいです。今回のバカ騒ぎで嫌でも思い知ったでしょう。貴方には仕事のできる実力も、それを鍛錬するための環境すらも揃っていない」

【笑星】

「……うん……」

 落ち込ませて楽しむ趣味は持ってないけど、これを機に是非大人しくなってほしいものだ。今回は効率良く敵を晒し上げるのに利用できたけど、基本的に勝手に暴れ回られると私にはデメリットしかないんだから。

【四粹】

「会長、お見逸れいたしました。が……いつから、笑星さんがそのような状況にあると気づき……そして監視カメラなどのセキュリティを設置されたのですか? あの映像の角度から想定する監視カメラの位置……前年度に確認した限りでは確か、カメラは無かった筈です」

【信長】

「それは、俺も思いました。前年度の村田の功績の一つですが……主に校舎に数台設置したに過ぎない。外を歩いていた学生全員の顔を映すほどの数の監視カメラなんて聞いたことがない」

 ……まあシリアスな話題ではあるし、テキトウにスルーするよりも諦めて喋ってしまった方が楽だろう。今日ちょっと私喋り疲れているのだけど。

【鞠】

「私は基本、繊細な性格なので人の会話の一つひとつに過剰反応する癖があります」

【深幸】

「……繊細??」

【鞠】

「まあ、嫌でも話は耳に入るわけです。というか最近は直接罵詈雑言を受け止めている機会が多いので」

 ほんと、こんな生活が下手すれば次年度になるまで続くと考えると心が死にそう。

【鞠】

「取りあえず、私は信用が圧倒的に無いということで部活や団体回りをして色々云われたわけですが、あの場で悪態をつかれていたのは私だけじゃなかった」

【笑星】

「あ……」

* * * * * *

【学生】

「その輝きの歴史を、台無しにしかねない非常に大きな例外があるから、無思考でいては危険だと云っているのです!!」

【笑星】

「……無思考ではないでしょ。だから邊見の代わりに玖珂先輩が就いたんだから」

【学生】

「運だけの奴は黙ってろ!!!」

【笑星】

「運だけの奴!?」

* * * * * *

【笑星】

「すっげー陰謀渦巻いてるー!! いきなり紫上会荒らすのやめてくれよー……」

【学生】

「おいおい……お前がそれ云うのかよ? 早速、いい身分だな! 本来お前は、紫上会に入れるわけのなかった奴だろうが!」

【笑星】

「ッ……」

* * * * * *

【信長】

「――会長はここにいる、砂川です!! これは玖珂先輩の再登用という例外措置を経た、決定事項なんです!! どの年度だって最初は殆ど信頼の無い状態から始まります!! 一体どこに、不公平があるというのですか!!」

【学生】

「……不公平なら、無くもなかったとは思うけどな。主に……1年とか色々」

【笑星】

「…………」

* * * * * *

【鞠】

「私への集中砲火だったのは間違いないですけど、その陰に隠れて私へのものに似たことを云われていましたから」

 同じく学年1位なのにあの云われよう。千歩ぐらい譲って同情の念は見つかるかもしれない。

【笑星】

「……あんなに凄い叩かれてたのに、俺へのコメントを聞き漏らしてないだなんて……先輩――」

【鞠】

「繰り返しますけど貴方のことは断じて慮っておらず、私はただ繊細な性格なので全部会話が頭に残るんです」

【深幸】

「……繊細ぃ……??」

 このチャラ男ほんと帰れ。

【信長】

「……会長への非難やら誓約書が全然集まらないことやらで焦って……俺は笑星のことに気が回ってなかったんだな……あそこで何かをしていれば、もしかすれば今日のことは起こらずに済んだかもしれないのに――」

【秭按】

「貴方が気を病む必要は全くないわ、松井くん。これは……起こるべくして起こった、というべきなのだから。それで砂川さん、監視カメラ……それに録音機なんていつ用意していたの? 職員室は突然の放送で大パニックだし……その辺の説明はしっかり貰っておかないといけないの」

【鞠】

「じゃあ、放送に関してですけど……まあ一言で云えばアプリを使いました」

 スタンバイフォームのアルスをひらひらと見せる。

【深幸】

「アプリ……? 放送とかってアルス使ってんのか?」

【四粹】

「いえ、少なくともこの学園の放送はこの職員室に併設されている放送室の放送機材を操作して流します」

【深幸】

「じゃあ益々意味分かんねえんだが」

 分かんないなら黙っててほしい。いや、帰ってほしい。

【鞠】

「たいてい放送室を訪れるのは教職員、或いは紫上会学生と聞いています。が、一般学生が全く使わないということでもないようなので、念には念を……私に対し不利な放送をされる心配があるので、少し機材を弄りました」

【四粹】

「……アルスから遠隔操作ができるよう、アプリを自作し、そのアプリに呼応する機能を機材に盛り込んだ、ということですか?」

【鞠】

「その認識でいいです」

 まあ、流石に機械弄りとか電気工学のスキルを持つ人でないと出来るわけないので、別に放送室に忍び込んで機材の箱を開けたとか、そういう方法ではない。

 これも結局先輩譲りの業……というかウイルスなんだけども、ぶっちゃければ機材のプログラムをハッキングしたのだった。絶対要らないよとか思いながら習得してしまったこの犯罪スキル、殺気の出し方に続いて日の目を見てしまったのだった。

 アプリだって、プログラミング技術ほぼ皆無の私が作れるわけがないので、「ウイルスを使って支配したプログラムを直感的に操作するアプリ」を自動作成するアプリを先輩(※正確には先輩のクラスメイトが作者)から貰っていただけだし。ほんと人生何が役に立つか分からないものだ。

【信長】

「……また、俺の想像を軽々しく超えていった……」

【深幸】

「おい……これ、普通に犯罪じゃ……」

【鞠】

「私が正義ルールなのだから何の問題も無いでしょう? 別に日常的に誰かが損を被っているわけでもないのだから」

【深幸】

「絶対繊細じゃねえよお前……」

 繊細だし。

【秭按】

「……流石、というべきなのかしらね」

 まあ悪びれるつもりは全然無い一方、ヤベえことやってるなっていう感情は確かにある。これは勢いで怒ってくる教師も居そうだなと。だから使いたくない手ではあった。早速使ったけど。

 だけど予想に反して、すごく道徳に厳しそうな担任は特に何も云ってこなかった。この人はほんと、よく分からない。そこも弟と全然違うところだろう。

【笑星】

「えっと……じゃあ、カメラは?」

【鞠】

「あの手この手で私を陥れようとしてくるのは想像できたし、今日のようなやり方は確実に一度は来ると思ってました。だから濡れ衣で押し切る一手を瞬時に殺す証拠が確実に手に入るよう、監視カメラの設置は最優先でやりました。音声については――」

【笑星】

「え……? ちょ、何!?」

 雑務のワイシャツの左袖裏に指を突っ込み……剥がして回収。

【鞠】

「――当然、盗聴器です。これもアプリで操作できて録音もできる等、小型の割に相当多機能なので、数は用意できませんし、バッテリー問題もあるので常時設置はできません。が、使いどころを見極めることができれば、映像と合わせて強力な証拠となる」

【深幸】

「当然っておま!!」

 勿論これだって使いたくはないけど、敵も容赦してくれないので私も出し惜しみするつもりはない。全力で叩き潰し圧倒的な力量差で屈服させる……これが周囲への見せしめ効果にもなってくる。わざわざ放送を操作して学園全体に犯行音声を晒したのも偏にそれ目的。

 こういうのは先輩の方が経験豊富で何枚も上手なんだけど……そういうことでそのやり方もレクチャーされたことがある。私をこんな魔改造してあの人は何が楽しいんだろう。

【笑星】

「お、俺、いつの間に……!? 気付かなかったんだけど!?」

 そりゃ気付かれたら盗聴できないし。勝手に近付いてくるからテキトウなところに付着させるのは楽だった。

【鞠】

「先も云ったように小型ゆえバッテリーは大きくありません。ですから起動して盗聴するのはここぞといったタイミング。別に貴方の私生活なんて全く興味ありませんからそこは安心すればいいと思います」

【四粹】

「ここぞいったタイミング……笑星さんが、皆さんに狙われる場面ですね」

【鞠】

「独りで勝手に学園内を回っている状態。これを狙わないわけないでしょう」

【深幸】

「そういやお前、今日紫上会室でずっとワイヤレスイヤホン片耳に着けてたな……てっきりやんわり遠回しに俺らへコミュニケーション拒否を主張してんのかとばかり」

 それもあるけど。

【信長】

「会長を直接狙い崩すことができないから、次は笑星が狙われる……そう読んでいたから、笑星に盗聴器を付け、独りで予算見極めに出かけてしまった笑星の盗聴を始めた……ということか……高度な情報戦を見ている気分だな……」

 そのまとめ方だと私が雑務を心配したからみたいな感じになるからやめてほしいけど、まあ今回の水面下の戦闘をまとめればそんなところだ。

 つまり、私からこれ以上話すことはない。だからさっさと上行って作業をしたいのだけど……。

【鞠】

「……先生」

 これで私の環境を乱しうる要素が完全鎮火されたかといえば、自信は無い。諦めてない奴もきっと居る……そう警戒するに越したことはない。

 といっても誰が狙われるかは変わりなく、雑務だろう。だから今日のノリで雑務をある程度泳がせれば、カウンターを打つのは難しくない。但しこれは雑務が何も悪いことをしていない前提ではあるけど。

 ……と、最終的には私を貶そうとしてくるのだろうけど、今奴らが一番見詰めている獲物は雑務。書記や会計ではなく、雑務。それには勿論、理由があるはずだ。この現在の構造を理解するに必須のこと……それをまだ私は知らない。

【鞠】

「さっき、これは「起こるべくして起こった」と云ってましたけど……どういうことですか?」

 だが、この先生は確実に理解している側だ。

 現在私に感謝をしているようだから、ここで情報を引き出しておこう。

【秭按】

「……策士ね、砂川さんは。本来なら、教職の身であれに関わる情報を外に漏らすことはしたくないのだけど……貴方に迫られたら、仕方無いわね」

 私をどう思っているのかとか、地味に怖かったりするのだけど、まあそれは横に置いておこう。

 どうやら、話してくれるようだから今はそれを聞くだけだ。

【秭按】

「今回の実力試験の結果は――二重の意味で、理不尽だったのよ」

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