3.14「過ぎたこと」

あらすじ

「もう、負けでいいじゃないですか」邊見くん、ブチ切れ回。これまたヤバすぎる怒濤の3話14節。

砂川を読む

Time

15:15

Stage

1号館 2F階段

【邊見】

「――村田先輩」

 その日の放課後、僕は先輩に声をかけた。

【冴華】

「おや……ふふ」

 階段を降りようとしていた先輩が、僕に振り返る。

 何を笑ったんだろう。僕の何処か、可笑しかったのだろうか。

【冴華】

「私たちの仲間になってくれる気に、なったんですか?」

 ――ああ、そうか。

 僕は、顔が変わってるんだ。えっちゃんには絶対見られまいと頑張ったんだけど……沸々と、煮えたぎって仕方無かったんだろう。

 当然だよね。

 こんなの――怒らなきゃ親友失格だ。

【邊見】

「ねえ、先輩……ひとつ、訊いていいですか?」

【冴華】

「……? 何でしょう」

【邊見】

「何で今、僕にクーデター参加を呼びかけたの? 僕、この前何度も断った筈なのに」

【冴華】

「え――」

 気付いたんだろう。

 僕が……えっちゃんに対して怒っているわけではない、と。

【冴華】

「貴方……まさか――赦し……」

【邊見】

「つまり、僕が貴方を訪れた時、それは気が変わってクーデター参加を申し込む時だって分かってたからだよね? 僕の実力試験の不調が、誰かによって仕組まれたものだったと僕が知れば、その犯人が一緒に頑張ってきた親友だったと絶望すれば、仕方無いって諦めていた僕の心を着火できるって」

【冴華】

「な――何を云って」

【邊見】

「だけど有り得ないんだよ。よくそこまで細かく調べられたなって思うけど……えっちゃんがどういう人なのかを、貴方は致命的なほど分かってない。えっちゃんが、パンをジュースに漬けるなんてそんな細かいやり方思いつくわけないじゃない!!」

 会長先輩は云っていた。

 次、仕掛けてくるとしたら――内部崩壊だと。

【邊見】

「えっちゃんが単純、もとい純真無垢な性格をしているのを利用して、リアルで、だけど出鱈目なことを、カンニング疑惑までかけられて自分に自信を失くしていたえっちゃんに吹き込んだんですよね!! そうして、えっちゃんを錯乱させ、記憶を塗り替えた!!」

 えっちゃんはポーカーフェイスとは無縁の人。あくどいことをして平然としていられるわけがない。

 だから、えっちゃんは絶対、何もしていない。僕に毒なんて盛っていない!!

【邊見】

「ありもしない罪を、あんな切実に受け止めて、絶望して……!! そんな親友を見せられたら、赦せるわけがない!!!」

【冴華】

「根拠の無い云い掛かりだわ!! さっきから貴方が何を云っているのか、私には皆目分かりません!! 堊隹塚くんに私が何かを吹き込んだ、そんな証拠――」

【邊見】

「僕は貴方を裁判にかけようとか、そういうことを考えてません。貴方が否定するなら、それをどうにかしようとも思いません」

【冴華】

「ッ――?」

【邊見】

「だって――過ぎたことだから」

 えっちゃんに云ったことだ。

 どうでもいいんだ。本来、どうでもいいことだ。

 それでもこうやって村田先輩を捕まえて好き放題云っているのは完全に僕の我が儘。こんな姿、えっちゃんに見せられるわけがない。

【邊見】

「村田先輩……僕の考えを、ハッキリ、云います。聞いてください」

 だけど悲しくて仕方無いから。悔しくて辛いから。

 だから。

【邊見】

「――もう、負けでいいじゃないですか」

 勝者だった僕も、一度だけ、好きにやってみようと思う。

【冴華】

「ッ――あ、貴方――いったい何を云って!!」

【邊見】

「だって、もう4月末ですよ? 実力試験は上旬に終わってるんです。結果発表式もされて、札も作られて、紫上会はもうスタートしてるんですよ。それをずっと後ろから引っ張って……紫上会は大迷惑ですよ」

【冴華】

「その紫上会が不適切であるから、放置しない為に抗議を続けているんです!! 貴方だって、いや貴方こそが、その紫上会の……あの会長の存在によって最も被害を被った人だということを自覚しなさい!!」

【邊見】

「じゃあ来年頑張ります。これじゃ、ダメですか?」

【冴華】

「な――」

【邊見】

「負けなら負けで、いいですよ。凄く悔しいけど、僕は勝った筈なのに……そう思うこともあるけど、でもそれ以上に今の紫上会に期待してるんです。砂川会長に」

【冴華】

「莫迦なッ!! あの野蛮人に一体何の期待ができるというのですか!!」

【邊見】

「えっちゃんを、育ててくれると思います」

【冴華】

「――!?」

 即答した僕に……村田先輩は、言葉を紡げずに居た。

 少し話には聞いていたけど、相当会長先輩が嫌いらしい。だけど、嫌いだろうが何だろうが……

 今年度、この人は敗者だ。

【邊見】

「えっちゃんが僕を幸せにしてくれるって云ってたから、僕はそれで満足します。敗者の分まで勝者が紫上会で頑張ってくれるから……それで、いいじゃないですか? これ以上、敗者が何を云うんですか」

【冴華】

「分かりませんッ、貴方の考えが……私にはッ!!」

【邊見】

「それでもいいと思います。あくまで僕の考えってだけですから。でも、最大の被害者たる僕が、砂川会長とえっちゃんを全面的に肯定している事実は、貴方たちにとって重大だと思います。それは――」

 云い換えれば。

【邊見】

「貴方たちクーデター組に、断固反対するということをも意味しますから」

 勝者による、敗者への攻撃。

【冴華】

「――――」

 この発言は……僕の言葉は、この一連の騒動の中では非常に強力なものとなる。

 死滅させるようなものでは断じてないけど……どうか、響いてほしい。

【邊見】

「もう……やめてください、先輩。運命はあの日、決まったんです……勝者は、それ以外の敗者はあの時に。これ以上、紫上学園を――穢さないでください」

 こんな、無益なこと、ただ誰かを傷付けるだけのこと、誰も幸せになれないから――

【冴華】

「――貴方に――」

【邊見】

「ッ……!?」

【冴華】

勝ちを奪われてヘラヘラしている貴方なんかに、私の無念など分かるわけがない――!!!

 動揺……から、豹変。先輩が、僕に詰めかかってきた。

【冴華】

認められるわけがッ、ないッ、私は、こんなところで失うわけには――あんな……野蛮にぃッ――!!!

【邊見】

「グッ――クァッ――!!」

 思わず締められていた襟から……手を、引き剥がす!!

 だけど、同時――

【邊見】

「ぇ――」

【冴華】

――!?

 僕の視界と、重心が、宙に舞った。

【邊見】

「(そういえば、此処……)」

 階段、だったな――

     

【冴華】

「ぁ――ぁぁ――」

【邊見】

「――――――――」

【冴華】

「ッ――!!!」

【邊見】

「――――――――

PAGE TOP