3.01「夢があった」

あらすじ

「……ううん、何でもない。ちょっと疲れてるだけー」笑星くん、心の曇り。3話タイトルでもう嫌な予感しかしないでしょうが、その通りの酷い3話の1節。

砂川を読む

vseboshi

 ……俺には、夢があった。

【笑星】

「ただいま~」

 夢と一文字にすると壮大かもしれないけど、俺の場合はそこまでじゃない。将来のことは、全然イメージがついてない。今は兎に角目先のことでいっぱいで。

【母親】

「お帰りぃ、笑星。今日は遅かったわねぇ」

【笑星】

「母ちゃん起き上がってこなくていいよ、安静安静」

【母親】

「いつもいつも病人扱いしてくれちゃってもう。今日は調子、とっても良いのよ?」

【笑星】

「お、そうなんだ! やったじゃん! でも結構な頻度でその翌日ぶっ倒れてるんだから引き続き安静によろしく」

【母親】

「はいはい」

 今は、兎に角お金が欲しかった。

 別に我が家は貧乏なわけじゃないんだけどさ。ちょっと、心配事が多いというか。

【笑星】

「父ちゃん、ただいま。……あ、寝てる」

 母ちゃんは数年前、重い病気にかかった。

 今は少しずつ快方に向かっているけど、あの倒れ方を見てるからか、心配が拭えない。いつどうなるかなんて分からないから。

【母親】

「丁度良い姿勢を見つけたんだって。そっとしておいてあげて」

【笑星】

「傍目からするとあんまり良い寝方には見えないけどなぁ」

 父ちゃんはすっごい働いた。姉ちゃんも学生の頃からバイトを掛け持ちして、社会人になった今も副業を持ってるらしい。無理が祟ったのか、父ちゃんは最近腰をやっちゃって、全盛期に比べてあまり働けなくなってしまった……だから今、確実に収入を作ることができるのは、姉ちゃんだけだった。

【秭按】

「笑星、着替えてきなさい。それから配膳手伝って」

【笑星】

「がってん! ちょっと待っててー!」

 じゃあ貧困状態なの? それはさっきも云ったように、そこまでじゃない。

 核となる手術はもう済んでるし、姉ちゃんがガッツリ稼いでいるから、贅沢をしなければ生活費はむしろ余裕ができているくらいだ。

 ただ、両親ともにこの先どうなるか分からない状態。だから可能な限り貯蓄を作っておくに越したことは無い。だから姉ちゃんは全力の仕事を今日も継続していた。

 俺の夢は……そんな姉ちゃんに近付くことでもあった。

【秭按】

「紫上会の仕事には慣れた?」

【笑星】

「まだ全然始まったばっかだよ。何から手を着けたらいいものかってね……いやホントに」

 姉ちゃんのように何か収入を持つことができれば……姉ちゃんの負担を減らせるから。

 だけど姉ちゃんは、姉ちゃんがやってきただろう事を、俺にはさせてくれなかった。学生は、勉学こそが本分だからと。

【秭按】

「過去の資料を読めば、おおかたの流れは掴めるでしょうに」

【笑星】

「うーん……そういう問題じゃない問題が発生してるっていうか……」

 それもあって――俺は紫上会を目指した。

 勉学を積み、学力を認められた5人だけがなれる、学園公式の職業。その収入は、学生バイトの比じゃない。

 実際姉ちゃんが紫上学園生だった時代の一番の稼ぎは紫上会会長の給料おんけいだったから。

【秭按】

「まあ、貴方はまだ下っ端。幸いと呼ぶべきか、あの玖珂くんが紫上会に残っているのですから、指示を煽ればいいわ。松井くんも居るわけだし」

【笑星】

「(その2人すら指示ひとつ出せない状態に陥ってるんだけどね)」

 別に紫上会にはお金目的だけで入ったわけじゃない。本心から、あそこは素晴らしい場所だと、俺の理想だと思っている。

 あの場所ならば、俺の「夢」が叶うと――

 だけど……だからこそ、俺は最近、一つの考えがずっと頭に貼り付いて離れない。

【秭按】

「……? どうしたの、ボーッとしているけれど」

【笑星】

「……ううん、何でもない。ちょっと疲れてるだけー」

【秭按】

「慣れなさい。そのうち、何とも思わなくなるわ」

【笑星】

「姉ちゃんは慣れすぎー」

 俺は……

 紫上会に入るべきじゃ、なかったのかもしれない――

     

 「その元気が癪に障る。莫迦にしてんのか」

 「1位になれる器じゃなかった癖に、調子乗ってる」

     

【邊見】

「……えっちゃん?」

【笑星】

「……え?」

Stage

霧草区

【邊見】

「ボーッとしてる。車道出ちゃ危ないよー」

【笑星】

「そ、そうだね。ありがと邊見ー」

【邊見】

「なんもなんも~」

 そう、少なくとも此処に。どう考えても俺よりも遙かに。

 紫上会に相応しかった筈の親友がいるのだから――

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