2.06「共に道を行くために」

あらすじ

「何故か、それを認めず、私に攻撃するどころか先輩を侮辱し続ける――“敵”が、いる」砂川さん、吹っ切れるLv.2。こっから突然違う方向に不穏なことになる2話6節。

砂川を読む

vsmari

Time

19:00

Stage

砂川家 鞠の寝室

【鞠】

「……………………」

 酷い……一日、だった。

 何を、何回、云われたかとか覚えていない。混濁している。意識が? なら、私は相当弱っていただろう。

 ……どうやって自分の部屋に辿り着いたのかとかも、全く覚えていない。

【鞠】

「……どうして……どうして、私が、こんな目に……」

 震える手で、アルスを、操作する。

 視界が安定しない。ぼやけている。

 普通に考えて……きっと泣きたいのだろう。当たり前だ。本来私は、繊細な性格なのだから。それなりに泣き虫なのだから。

 だけど、涙が出てこないのは……もうあの時、枯れるほど泣いたからだろう。

 あれほどの地獄を、私は他に知らない。なら、今回の事件だってそれに比べたら大したことはないということだろう。

【鞠】

「……先輩……」

 だけど。それでも理由になるなら、躊躇わず使う。

 先輩の声が聞きたかった。今すぐ、先輩に全てを、ぶちまけてしまいたくて。

【鞠】

「先輩――先輩――」

 私は、通話ボタンを――

* * * * * *

【先輩】

「― にしても新規で入って即トップとか、とことん俺みたいじゃん砂川。コッチの気持ちが分かる人が増えて俺は嬉しい ―」

* * * * * *

【鞠】

「……………………」

 ――こんな、混沌としたまま一方的にぶちまけたりなんかしたら……

 先輩に、迷惑か。折角、喜んでくれたのに、それを塗りつぶしちゃうのは……

 嫌かな。

【鞠】

「……はぁ……」

 アルスを放り投げて、しっかり仰向けになってベッドに沈む。

 意味も無く、天井を見詰めているこの時間は矢張り無意味だろうか。

 だけど……ちょっと、落ち着いたかもしれない。少なくとも、視界はだいぶ明確になった。

【鞠】

「……先輩と、同じ立場……か」

 確かに、そうだ。

 あの頃は私、全く興味無かった時期だけれど……先輩はあの学園にA等部から新規入学してきたと同時、学園の王座に就くことになった。

 そして、独裁が先輩の意思に関係無く始まり……先輩たちを否定する者たちとの戦いの日々が始まって。

【鞠】

「あー……ほんと、今の私その道入りかけてるじゃん……」

 何でこうなったホント。

【鞠】

「でも先輩、負け無しだったなぁ」

 直接教えてもらったことはないけど、先輩には何か負けられない理由があった。

 数百もの“クーデター”を返り討ちにするほどの、凄まじく強固な意思が。

 それが、先輩の選んだ道……。

【鞠】

「私は……先輩みたいに、なれるかな」

 普通に考えて、絶対に無理だ。あの人はイカれてるから。

 だけど私は、先輩と一緒にこの先を歩んでいきたいから。

 先輩は私とこの先を歩むと云ってくれるから……なら、私が先輩が無駄に傷付かないように。先輩の足手まといにならないように、したい。

 もう、あんなものを見るのは御免だから。

【鞠】

「……私の道は、もうあるんだ」

 最初からあったんだ。それを……

* * * * * *

【先輩】

「― 村田さんは結構良いことを云ってるぜ。正義なんてものは所詮押し付け合いだ。正解なんて保証は、そう簡単に得られやしない。だから押し切れる……強い奴が、正義になる。それが現代社会の一理だろうよ ―」

【鞠】

「先輩……悪党っぽいんですけど」

【先輩】

「― 悪党だろ? そして、俺は事実上正義・・だ ―」

【鞠】

「……ですね」

【先輩】

「― 砂川は、どうしたいんだ? ―」

【鞠】

「どうしたいって……急にそんなこと、云われても」

【先輩】

「― お前が何かに対し辛くなった。それはすなわち、何か不満ごとがある。お前をそこまで過ごしづらくさせる、見過ごせない不満が ―」

【鞠】

「不満……そんなの、当たり前じゃないですか」

【先輩】

「― 砂川の不満は、砂川の想いは、究極的には砂川にしか分からない。他人の言葉はどう足掻いても推測でしかないよ。だから、砂川自身でしっかり整理し洗い出し……ソレを殺すしかない ―」

* * * * * *

 邪魔しているモノは、何だ。さあ、整理だ。

【鞠】

「……前提として、私は学園を卒業する。その学園は、紫上学園以外にはありえない」

 彼処でも今酷い扱いになっているが、他では抑も受け付けすらしないだろう。これは以前にも結論付けたこと。

【鞠】

「そして、私は……安心して道を行く為、勝者になった」

 勝者こそが正義、それがこの社会の理だから。

【鞠】

「だけど……」

* * * * * *

【学生】

「信用できるのは松井と玖珂先輩のみ!! そんな状態で六角会長の意思を継いでいけるわけがないだろ!!」

【学生】

「兎に角、男子バスケ部は誓約書を渡さない!! これは俺たちの意思だ!!」

【学生】

「自由奇天烈がウリの俺たちの、いわばスポンサーってことになるよな紫上会は? その会長が、なぁ……全然イケてねえ!!」

【学生】

「おかしいだろ、紫上会のメンバー考え直せよ! って学園に伝えろよ。これ絶対、軽音だけじゃないからな、学生側の大多数の意見だから」

【学生】

「それとも、何か文句反論あんのかよ、会長さんよ」

【学生】

「確かに紫上学園は学力を尊重している……それ故に実力試験が設けられ、学力による恩恵が数多く設けられ実際多くの学生がコレに助けられてきた、それは事実です。ですが、ただ学力一つのみで、人々の上に立つ者とするのは間違っていると云わざるを得ない!!」

【児玉】

「……松井、紫上学園の王座に就くべきは、紫上学園生だ!! そしてそれは……お前なんだ、松井!!」

【学生】

「怖じ気づくことねえよ松井! 大丈夫、俺たちがついてる! だから、紫上学園らしい紫上会を、作ろうぜ……!! 皆、それを本当望んでるんだからさ!!」

* * * * * *

【鞠】

「何故か、それを認めず、私に攻撃するどころか先輩を侮辱し続ける――“敵”が、いる」

 ……何だ。

 整理してみれば、何てことない。

 何をすればいいかなんて瞭然で……先輩だって数百やってきたことじゃないか。

 ただまあ……ちょっと、これはもう宿命というか。穏やかな路程は……暫く、諦めた方がいいのかもしれない。

 でも、仕方無い。

 此処しか通る道が無いのだから。

 ならば――知るものか、私の大切なものを、約束された道を穢す紫上学園やつらなど……

【鞠】

「どうなったって、知るものか」

     

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