2.10「理の前に」

あらすじ

「何で敗者が勝者に命令してるんですか?」砂川さん、勝者の理発動。体育館の形状は作者的には普通をイメージしてます。因みに背景素材は面倒臭すぎるので挿絵よりも期待しないでほしい2話10節。

砂川を読む

 ぴーんぽーーんぱーーんぽーーーん――

【鞠】

「― 紫上会放送。本日15時30分に2号館にて紫上会会見を開きます。見たい人は来ればいいと思います ―」

 ぴーんぽーーんぱーーんぽーーーん……。

【学生】

「「「!?!?!?」」」

 お昼終わりの学生たちの頭上から知らされた、待ちに待った機会。

 私はそんなに待ってはいなかったが、まあ丁度良い機会。

 今年度の紫上会が結成されてからというものずっと停滞していた不穏な状況の、愈々進展する時が来た。

Time

15:30

Stage

2号館 体育館

 それはすなわち、衝突。

 最初から奴らにも……そして私にも、話し合いなんてする気は更々無いのだから。

【笑星】

「すっげー集まったね砂川会長ー……」

【鞠】

「てか何で居るんですか貴方は」

【笑星】

「えっ、だって俺紫上会だし……紫上会の会見だし……」

 面倒臭い。

 この……何の役職だったっけ……あっ雑務か、雑務はまだいいが、他の連中まで舞台裏に集まってしまった。

【深幸】

「俺らに何の確認も無く会見たぁどういうことだ芋女……!! すんげー集まってんぞ! 大規模だぞ初っ端からこの会見!!」

【信長】

「……まあ、間違いなくアレについての見解、だな……」

【四粹】

「…………」

 邪魔だ。

【鞠】

「私が全部やると何度云えば」

【深幸】

「理解できるわけねーだろ?? お前紫上会舐めすぎじゃねえのか!? あと俺たちもやる気があって入ってんだよ、それ根こそぎ奪おうって発言なの理解しろ!!」

【鞠】

「貴方たちの事情をどうして私が考慮しなければいけないんですか」

【深幸】

「こ……コイツ……流れるように云いやがった……」

 ……扨、時間だ。

 溜息が一つ漏れながら……私は袖から出て、ステージに一人立つ。

 で……私をステージの高さ分見上げる連中は、200人……もしかしたら300人超えてるかも。まず部の代表とかは必ず来ると考えていたから、それを引いた分は全員ただの見学か。

【学生】

弱小会長は退陣しろーーー!!

【学生】

学園から出て行けーー!!

 いや、野次か。勿論スルー。

【鞠】

「予定の時間です。紫上会の会見を始めます。終了予定時刻は遅くとも16時。といっても貴方たちから何もないなら即刻終了します」

【児玉】

「何……?」

【鞠】

「どうせ、何か云いたいことがそちらにはあるのでしょう? その為に開いてあげた場です。暴力は論外ですが、貴方たちの言論の自由を此処では認めてあげましょう」

【学生】

「な、何だその態度は――」

【鞠】

「云いたいことがあるなら挙手すること。あと、私にメモを取らせるようにテンポを考慮すること。どうぞ」

 ……だいぶ声の威勢が消えた。挙手制にした途端これだ。

【児玉】

「……前にも云ったことだ。まさか忘れたとは云わないな?」

 だけど即座に挙手する者もいる。まあ、そうじゃなきゃこの場の意味無いし。

【鞠】

「どうぞ」

【児玉】

「ポッと出の野蛮人が、この由緒ある紫上学園の会長になるということが、あってはならないことだ!! 前例が無い? 本来無いものなのだから当たり前だろう!! それを引き起こしたお前は、今すぐ退陣しろ!!」

【学生】

「そうだ!! このカンニング野郎――!!!」

【学生】

「俺たちは松井会長を求める!!! 紫上から出て行けーー!!」

【鞠】

「挙手をしていない者は発言者として認めません。野次は今すぐ此処から消えなさい」

【学生】

「ッ……?」

【学生】

「(おい……何か、前に見た奴と何か違くね……?)」

【学生】

「(今の、眼光なんだ……? 覇気……殺気……?)」

 そういえばソッチを直接訴えてくるパターンもあったか。確かに、ここに集まっている――特に部の代表として出席している奴らは抑も現紫上会を認めていないのだから、掲示とか関係無いのかもしれない。

 だけど……こうして私がわざわざ作った場に集まってきたということは、確実に危機感を意識している。

【学生】

「……会長殿、一つよろしいですか」

【鞠】

「どうぞ」

【学生】

「今日貼り出された掲示……あれはつまり、我々全員、退部させる……そういうことですか? その暴挙の説明をお願いします」

 否、そんなあやふやなものでなく、具体的な危機だ。それを私は貼り出した。

【鞠】

「事実そうなりますから、そう解釈して構いません。厳密には、貴方たちの所属している部活を悉く廃部処理する、ですが」

 また会場がざわつく。そして余計な野次が飛ぶ。

 巫山戯んなって、私が巫山戯んなって気持ちでいっぱいなんだけども。

【鞠】

「その質問に答える前に、時間が限られていますから、先に云いたいことを全て聞きましょう。他に挙手者は」

 挙手、と云ってるのにどんどん声があがる。

【学生】

「だーかーらぁ、俺たちのスポンサーとして、アンタはしっかりやれんのかって話だよ!! この前も云ったろ!!」

【学生】

「我々もこの前主張した通りです!! 紫上会は政治の場所――その場に立つ者は代表で、人々の願いを代行するにあたって多大な信頼を受けているのが前提なのは明らかです!! したがって、砂川現会長は致命的なほどに信頼に欠けており、会長職を続ける資格が無い!!」

【児玉】

「紫上学園の長は、紫上学園生たるべきだ!! お前は紫上学園の伝統を弄び、泥を塗った!! 前紫上会に無許可であの学園からの転入を許した学園側と共に、紫上会は刷新するべきだ!!!」

【鞠】

「はい。他には」

【学生】

辞めろ!!!

【鞠】

「次の挙手者は」

【学生】

だから――

【鞠】

「次」

 ……。

【鞠】

「次」

 …………。

【鞠】

「次」

 ……………………。

【四粹】

「……恐ろしい、方です」

【笑星】

「え? いきなりどうしたの玖珂先輩? どういうこと?」

【四粹】

「全く、堪えていません。彼らもそれが分かってきたのでしょう……彼らが今まで彼女を倒そうとしてきた手段が、今日全く手応えのないことに」

【深幸】

「んで……ネタ切れしてきたって感じか。この奇妙な静けさ」

【信長】

「だが、それをして何になる? 何の解決にもなってないぞ――」

 ……びっしりメモが3枚分埋まった。台とか無しに筆記するのにも今後慣れておいた方がよさそうだ、地味に疲れた。

 ……さて、そのびっしり彼らの主張をメモった3枚を、手帳から切り離す。

【鞠】

「……じゃあ、特にもう無いようなので、応答します」

 それを――

【後ろの人達】

「「「――!?!?」」」

【出席者】

「「「!?!?!?!?」」」

 ――ビリビリビリ。

 横に、縦に、また横に……多少それを繰り返して、破き散らした。

 チラチラと視界に千切られた紙吹雪が舞う先で……呆気にとられた者たちの顔が映る。

 こんな連中に先日鬱にさせられかけたのかと思ったら、頭痛を招きそう。流石の繊細さだ。取りあえず溜息だけ、一つ。

【鞠】

「スポンサーとしてしっかり? 多大な信頼を受けた代表? 紫上学園生たるべき?」

 じゃあ、そろそろ私も、云いたい事を云うとしよう。

砂川紙吹雪

【鞠】

「――何で敗者が勝者に命令してるんですか?」

 鼻で笑うついでに出てきた言葉、のつもりだったけど。

 案外連中には響いたらしい。会場がもっと、静かになる。

【鞠】

「敗者はどう足掻いたって敗者でしかない。当たり前でしょう? 強者こそが、勝者こそが正義なのだから」

 この理の前に。

 貴方たちは膝を着く以外の道は用意されないのだから。

【児玉】

「ッ……貴様――」

【鞠】

「百歩譲って唯一マシだった声に応えましょう。廃部処理の話です」

 この話は終わり。次の話。

【鞠】

「知っての通り、紫上学園の組織の大半は紫上会の管轄下に位置づけられています。部活動は漏れなくその例です。そして紫上会と各組織は年度始めにその関係を承諾する意味で、誓約書のやり取りを行うわけです」

 此処に集まった者たちは、その誓約書のやり取りを拒否した組織の者たち。すなわち、

【鞠】

「貴方たちの組織は、この紫上学園で部活動をする資格を持たない。これも当たり前ですね?」

【学生】

「は……はぁ――!?」

 はぁ!? はこっちの台詞。

【鞠】

「暴挙と云いますが、これはごく自然なやり取りに含まれるでしょう。実際、私が野蛮云々と一切関係無い過去の紫上会においても、この処理をくだした前例が存在します」

 単なる誓約書の渡し忘れというのもあれば、紫上会の会長が気に入らないという理由で誓約書のやり取りを拒否したという今同様のケースもある。

 勝者である私を意地汚く認めようとしない敗者どものその態度は、最悪どうでもいい。ただそいつらの為に私が何か気にかけるなんてことは、尚更有り得ないこと。

【鞠】

「誓約書提出の期限は今週19日金曜日迄。提出は、この私に直接部長が手渡しする以外一切認めません。また、誓約書不提出の組織は即刻紫上会不誓約の無許可団体と見なし、これ以上の警告無しに許可団体の登録を抹消します」

【学生】

「そ…そんなの――横暴だ!! 自分が認められないから、その腹いせで勝手にやってることじゃないか!!」

【鞠】

「勿論、これは貴方たちの放課後を束縛することではありません。野球がしたいなら勝手に人を集めてやればいい。但し、それはただの放課後の集まりでしかなく、紫上学園の保有する団体では断じてありません」

【信長】

「ッ……つまり……それは――」

【児玉】

試合を組ませないつもりか!! この外道が!!

【鞠】

「組めるなら組めばいいのでは? ただそこに紫上学園は関与しない、それだけの違いです」

【信長】

「ま、待ってください会長……!! 学園としてしか……公式試合には出れません!!」

【鞠】

「困るなら、解決は簡単なことです」

【児玉】

「――!?」

【鞠】

「誓約書を、部長が、私に、手渡せばいいんですから」

 一体何度同じことを云わせるんだ。この人たち本当、頭大丈夫だろうか。

 というか時間だ。30分。まあ丁度良い時間設定だった。

【鞠】

「誓約書は各団体に、前年度既に配布されています。紛失した場合は即、この私に届け出ること。以上、紫上会会見を終了します。バドミントン部の活動が控えているので速やかに退出するように。ごきげんよう」

 罵声怒声阿鼻叫喚をスルーしながら、ステージを降りて出口に向かう。

【笑星】

「ちょ、砂川先輩待ってよー!?」

【深幸】

「おい何もかも勝手に進めて終わらせてんじゃ――」

【学生】

どうなってんだ茅園おぉおおおおおお!?!?

【深幸】

「ッ……!? ちょ――」

【学生】

「松井!! お前、ちゃんと先生たちに話通してんのかよ!?」

【学生】

「クーデター、するんだろ!? 松井!?」

【信長】

「――――――――」

【学生】

「……? おい、松井……? 聞いてんのか、松井!?」

【深幸】

ッッッあんの……芋野郎があぁあああああああああ……!!!!?

【四粹】

「……絶対的な、強者……ですか」

 ……取りあえず今日やるべきことはやったし。

【鞠】

「帰ろ」

 久々に、ベッドで寝よ。

     

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