1.16「勝者砂川」

あらすじ

「――野蛮はどっちですか」砂川さん、反撃します。砂川さんのやり方および本作の性格というのがここから分かってくる1話16節

砂川を読む

Day

4/9

Time

8:15

Stage

紫上学園 正門

 1限だけで終わった騒がしい日から、ダラダラしていたら一夜明けてしまった。

 ということで今日から、授業が始まるわけだが……

 正直、私に授業が必要なのか結構疑問ではある。

【鞠】

「もう終わってますし」

 一般的なA等部学生が学ぶ内容は、B等部に入る前にはもう、家庭教師から全部授業受けてたし。

 その上で「俺と全科目学力勝負できるのお前ぐらいだから楽しいわ」ってことで先輩の模擬試験ごっこに1年以上附き合ってたから……

 実力試験の準備は、2日あれば完成した。まあどんな難易度か過去問を受け取った時は分からなかったから、無駄に張り切って一夜で終わらせてしまったけども。

 そんなわけで全科目満点というのは私からすれば、ケアレスミスが無ければ充分現実味のある展開だった。寧ろ、2時間筆記し続けを繰り返すびっしりスケジュールの方が指のスタミナ的に壁だった。指の回復の為だけに日曜日全てを費やす覚悟をしたぐらいだ。

 ……まあその覚悟で午前中休んでたら、事情を察したらしいメイドが「こういうのって唾液が良いんですよね」とか云い出して人の指を咥えようとしてきた珍事件によって予定外のスタミナ消耗をしてしまったから、ぶっちゃけ昨日は疲れが大いに残ったまま登校となった。1限終わり、最高。

 でも今日はしっかり5限まである。因みに時間割を見る限りでは、この学園は5限終わりが基本のようだ。

【鞠】

「のんびりできたらいいなぁ……」

 と、呟きながら正門を越えた。

【笑星】

「――来た!」

 何か視線を、一般よりも露骨度が半端ない視線を感じる。

 軽いデジャブが私の朝の頭を揺さぶるようだ。

 勿論、スルー。

【笑星】

「甘い! 3度目の正直!!」

 構わず歩き出す私の正面で全力滑走を止める。

 ……が、私の正面というタイミングで全力滑走にブレーキを掛けた為に、当然今度は制動距離分滑っていく。

【笑星】

「あれ、ちょ、待っ――」

 がしゃーーん。

 何かとぶつかるような音が横から聞こえた気がしたけど、勿論スルー。HRに遅刻したくない。先生怖い。

【邊見】

「えっちゃん、大丈夫~……?」

【笑星】

「いってててー……畜生、何だってんだ~……!」

【四粹】

「す、すみません。手前が、邪魔になってしまって……」

【邊見】

「あー、いえいえ、十中十こちらのえっちゃんが過失運転だったので~。ごめんなさい~……」

【四粹】

「て、手前なんかに頭を下げないでください……大丈夫ですか?」

【笑星】

「あっ、大丈夫……って、確か書記の先輩ですよね! 紫上会の!」

【四粹】

「はい……といっても、もう引退のですが……玖珂と申します。お2人は……堊隹塚笑星さんに、邊見聡さん、でしたね」

【邊見】

「……?」

【笑星】

「あれ、何で俺たちの名前を」

【邊見】

「それは多分、昨日名前を呼ばれたからだよ~」

【笑星】

「あ……そっか。じゃあ……やっぱ夢じゃないんだな……」

【邊見】

「うんうん。えっちゃんは、1位なんだから~」

【笑星】

「それは……うん……」

【四粹】

「おめでとうございます、お2人とも。それから……彼女はもう、去ってしまわれましたか」

【笑星】

「……あ! クソぉ~また逃げられちゃったよー……先輩には、聞きたいこといっぱいあんのになぁー」

【邊見】

「後で幾らでも訊けるだろうから、取りあえずHRに遅刻しないようにしようよえっちゃん~」

【四粹】

「……邊見さん、その……後で時間を戴けますか?」

【邊見】

「え……?」

Stage

1号館 2D教室

 がらがらがら。

【冴華】

「……………………」

 がらがらがら――

【冴華】

「閉めんな」

 残念ながら私の教室だった。

 なのに扉を開けたら目の前で違うクラスの女子が仁王立ちしていた。

 そして閉まりきらなかった扉を勢いよく開けて、女子が私の襟を両手で掴んだ。

【冴華】

「どんな……どんな手を、使った――!!」

【鞠】

「…………」

 すっごく残念ながら、この女子は私に会話を仕掛ける常連になりつつあった。

 私は忘れたいものを忘れる記憶管理のスキルを持ち合わせていないので、悲しいことにこの女子がどういう奴なのかを覚えつつあった。

 ……その記憶によるなら、今この女子の様子は少しばかり変だ。

【冴華】

「答えなさい、この、野蛮人ッ――! 神聖な、あの場で一体どうやって――」

【信長】

「やめろ村田――!!」

 ……こっちも、クラスの中では見慣れてきた顔だ。

 ソイツが、私を強く掴むこの手を引き剥がした。

【信長】

「もう、終わったことだろ……お前の気持ちは分かるが――」

【冴華】

「分かるわけがないッ!! 貴方には――いや、そんな話はどうでもいいのです、問題は、この野蛮人が――」

【信長】

「何かイカサマを使ったと? それの対策は、今までも充分強化してきた筈だろ。村田、お前だって大いに活躍したことじゃないか……! 実力試験時のセキュリティの検挙率は、お前が一番知ってる……」

【冴華】

「ッ……」

 なるほど。その話か。

 思えば、この女子が発端だった。

 自分が“強者”であることを掲げて、“弱者”らしい私に意義の分からない攻撃を次々仕掛けてきて……

 その強者たる証拠が――

【鞠】

「――そっか」

 つまり、もうこの女子は、

【鞠】

「私よりも、弱者なのか」

【冴華】

「ッ――!?」

【信長】

「……す、砂川さん……?」

 他は兎も角として、この女子にとって学力というステータスは学園全体を絡めてでも顕示したい武器。

 だが、その武器はもう、最強でないことが証明された。

 何より、この私の前に敗北していることをも証明された。

【鞠】

「だけど、自分のルールで負けた癖して、尊ぶべき勝者にケチを付ける」

 それは様子がおかしくもなる。きっと、天国から地獄に堕ちたようなものなんだろう。

 じゃあ。

【鞠】

「――野蛮はどっちですか」

 思いっ切り地獄で苦しんでれば、いいじゃん。

【冴華】

「ッ……ッッッ、ッッッッッッ――」

【鞠】

「HR、始まりますから」

 会話を切り上げて、今度こそ教室に入り自分の椅子に座る。少しして、廊下から走る音が聞こえ、そして消えた。

【信長】

「…………」

【安倍】

「…………」

【クラスメイツ】

「「「…………」」」

 ……何だかまた見られてる気がするけど、先週のような感じではない気がする。ひそひそ話も聞こえてこない。ざわめきは微妙にある。

 ということで矢張り落ち着きはしないけど……これで、平穏に近付いた筈だ。私は莫迦にされる筋合いがない。私で話題にならなくなるのだから、先輩たちに飛び火することもない。これで……落ち着いて、生活できる筈。

 私の人生は、再び緩やかに、穏やかに、道を行く――

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